そこでその人が不思議に思って子賤に「どうしてそんなにうまくいくのですか」と尋ねたところ、彼は「あなたは自分の力を使ってやろうとするから骨が折れるのです。私は人を使って、やってもらっているのです」と答えたという。
子賤という人は、孔子が褒めるぐらいだから、才能も手腕もあり、自分が直接やってもうまくやれる人だったのだろう。しかし、得てしてそういう人ほど、子賤とは違ってつい自分の力を誇り、それを見せようと、何でも自分でやろうとしがちである。
権限を委譲しても、権威を委譲してはいけない
人間というのは、生きていくなかで何がいちばん嬉しいかといえば、人から信頼されているということであることは間違いない。人から信頼されるとき、私たちは誰でも特別な幸せを感じる。責任ある仕事を任されるということは、信頼されているということであり、それゆえ人間は権限を委譲されればストレートに喜びを感じる。自分の創意が活かせるという喜びも重なって、精いっぱい頑張ろうと思う。だから成長する。
さて、権限の委譲ということに付け足しておくと、権限を委譲しても、権威を委譲してはいけない。それがなかなか難しい。
仕事を部下に任せると、時間もできるし、偉くなったような気分にもなる。本当はそんな暇もないし、そういう気分になることもないのだが、そこが人間である。部下が仕事をやっているにもかかわらず、自分は付き合いだと言ってゴルフに出かける、交際費は節約しろと言いながら、自分は夜ごとの会社のカネで飲み歩く。遅刻するなと言いながら、自分は遅れてくる。約束は守れと言いながら、自分は守らない。
そういうことをすると、責任者としての権威がなくなっていく。
人間としてなすべきことをなす、なすべからざることはやらない。そこに権威というものが生まれてくる。自分の責任を感じながら、そういう点をきちんとしていれば、部下のほうも責任者に敬意を表しつつ、任せられた仕事に精いっぱいの努力をして向上していく。しかし、責任者がなすべきことをなさないと、だんだんと部下から軽く見られるようになってしまう。部下も手を抜くようになっていく。
特に経営者は、権限は委譲するが権威は維持するということを、よくよく心がけなければいけない。部下は必ず大将のまねをするようになる。よく松下の前で「うちの社員は仕事をしない」とか「できが悪い」とこぼしていく経営者がいた。
しかし、傍から見ているだけでも問題の多い経営者であることが見てとれたものである。仕事をしない、できが悪いのはそう言う経営者自身であることがわかっていないのだ。
4番目は、感動させるということ。部下を感動させることができない上司、経営者には、部下を育てることができないと私は思っている。
もともと3人で会社を始めた松下電器産業に、優れた人材がそうそう集まってくれるわけはない。つまり松下が人を育てたのである。そして、これらの4つのポイントこそ、松下幸之助の人材育成のその柱となるものであった。
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