結論から書けば、たとえ担当した製品が売れなくても、担当者は「責任」をとらされることはない。
「元に戻して考えればええだけや。『改善を続けるかぎり、失敗にはならない』というのがウチの考え方。その試行錯誤が個人の財産にもなる」というのが山田氏の考えだからだ。
総務課が決めたトヨタより高い会社見学料金
ホウレンソウがない未来工業では、社長の知らないうちに地方に営業所ができていたり、総務部長の発案で1時間の昼休みが45分に短縮されたこともある。ほかにもまだある、「そんなことまで勝手に決めていいの?」という「ホウレンソウ禁止」の驚きの実例を紹介しよう。
総務課の社員たちが勝手に決めたのが、1人2000円の会社見学料金。東京の美術館でも1500円程度だし、トヨタ自動車も会社見学は無料だからメチャクチャ高い。「料金を高くすれば誰も来なくて、ヒマになる」と考えたかどうかは不明だ。
しかし結果は、国内外から見学者が増え、以前より忙しくなって「年商なんと2000万円」の日本一稼ぐ(!?)総務課が誕生した。
同社の本社社員食堂は、定食・麺類・どんぶりのどれでも一食499円。そのうち200円を会社が補助しているが、「何回社食を食べたか」を記す伝票やカードはなく、あくまでも自己申告制。だから10回食べても「20回食べた」と、嘘の報告をしてもバレることはない。
しかし、社員たちの自己申告額と食堂の精算は、毎月ぴったり一致する。ホウレンソウがなくても、誰もごまかさないわけだ。
ホウレンソウ禁止を逆手にとり、社員らが内緒で設計したのが山田氏の社長室(当時)直結のトイレ。
1985年の新社屋建設時、夏は節電のために山田氏は社内ではランニングシャツとパンツ一丁が定番だったが、お客さんも出入りするため、「下着姿の社長」を見られるのを社員たちが嫌がったか。そこで「社長室直結のトイレ」を勝手に社員たちがつくったのだ。
「社長専用はムダだろ?」と怒る山田氏を、社員らはこうなだめたという。
「いいえ、私たちもしっかりと使わせていただきます。それよりも、『社長室直結のトイレは日本初じゃないか』と建設会社の方が言っていましたよ」
日頃から他社との差別化を説く山田氏を、「日本初(!?)のトイレ」を口実に黙らせたわけだ。しかも、この新社屋と工場建設は社員たちに丸投げで、山田社長はノータッチ。
「社員たちが一番働きやすい本社を建てればエエんや」というのが山田氏の考え方だったが、こうしたホウレンソウ禁止を逆手にとった「常識破り」の数々。
なぜそこまで未来工業は「ホウレンソウ禁止」にこだわるのか?
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