例えば、
――「(ハフィントンポストの創始者)アリアナ・ハフィントンは魅力がない。見た目も中身もだ。前の旦那がほかの男と一緒になるために、彼女を捨てたのも無理はないね。彼はいい決断をしたよ」
――「ヒラリー・クリントンは旦那を満足させることもできないのに、どうやって国を満足させるって言うんだ」
――「(女性が)若くて、いい尻をしてれば、メディアが何を書こうと関係ない話さ」
――「俺の美徳はものすごく金持ちだ、ってことさ」
――「俺のIQはとにかく高い」
――「俺の指は長くて美しい。他の部所もそうさ」
――「ニューヨークは雪が降って凍えそうに寒い。我々には地球温暖化が必要だ!」
――「痩せてて、ダイエットコーラを飲んでる人を見たことがない」
という感じで、芸能人ならまだしも、大統領候補としては不適切きわまりない発言を何のお構いなしにぶちまける。
ポリティカル・コレクトネスはどこへいった
身体がマヒした記者の真似をしてバカにしたり、女性蔑視、外国人差別、障碍者差別臭プンプンの発言・行動は、ほかの候補者のものであれば、糾弾されること間違いなしの内容なのだが、正常範囲をはみ出し続けることで、同調圧力から解放される「治外法権」状態。まさに、「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれない」という感じだ。
というより、メディアがこぞって叩いても、批判しても、トランプの熱狂的支持者はびくともしない。彼の人心扇動術の凄さ、恐ろしさ、そのコミュ力を紐解いてみよう。
「大言壮語」。ドナルド・トランプはとにかく他人を誹謗し、自己礼賛する究極のナルシストだ。全く根拠も真実味もない内容でも、最大級の自信で断言してみせる。政治メディアの「ポリティコ」が、トランプの発言を詳細に分析した結果、5分に一回、「ホラ」を吹いていることがわかったという。例えば、「3.11の時、ニューヨークの隣の町では、世界貿易センターが倒壊する瞬間に、何千人もの人が大喜びしていた」と断言するなど、多くの発言が間違っていたり、誇張したデータや事実誤認だった。
このように事実を歪曲させ、自分の考えを信じ込ませる手法はガス・ライティングと言われる。この言葉は1940年代にイングリッド・バーグマンの主演で映画化された「ガス燈」と言う作品に語源を発している。夫が妻の周囲に様々な小細工を施し、変化に気づいた妻が指摘すると、それは思い込みだ、と主張することで、妻の現実感覚をゆがめ、正気を疑わせるというストーリーだ。事実を捻じ曲げることで、まっとうな判断をできなくしてしまう。トランプの手法はまさにこの映画の夫のような心理的虐待の手法を用いている、と指摘する声もある。
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