「バターが買えない」の裏にある不都合な真実 新聞報道は重要なポイントを見落としている
酪農・乳業、牛乳・乳製品の世界は、農業と製造業、農産物と多種類の乳製品で成り立つ複雑な世界である。米のように、農業と農産物だけという世界よりも、はるかに入り組んでいて、容易に理解できないところがある。正確な報道が行われにくいのも、このためである。
拙著『バターが買えない不都合な真実』の第一の目的は、なぜバターが不足するのかを説明することにある。それだけではなく、酪農・乳業という産業と牛乳・乳製品という生産物に関し、経済的な側面から見た基礎的な知識とこれらの産業・生産物についての政策について、解説したい。これを読めば、読者は牛乳・乳製品政策に関する歴史的かつ包括的な知識を身に付けられるだろう。
また、どういうメカニズムでバター不足などの現象が起こるのかを、理解できるようになるはずだ。また、農林水産省の人たちが、どのようなことを念頭に置いて政策を検討したり実施したりしているのかについても、説明したい。これは、長年酪農・乳業界の中にいる人たちも知らないことだろう。
以上を踏まえて、バター不足が起きた本当の理由や、酪農・乳業、牛乳・乳製品の世界に隠されている、複雑な事情や秘密を明らかにしたい。これらの事実を知らないと、酪農を専門とする大学教授、農業団体、農林族議員や農林水産省の役人など、いわゆる専門家と称する人たちに騙されてしまうからである。
経済学を勉強するのは経済学者に騙されないようにするためだという名言を残した、イギリスの有名な経済学者がいる。しかし、一気に彼らの噓を見破るだけのレベルに達することはできない。専門家は巧妙に噓をつくからである。
ムラは運命共同体
「原子力村」という言葉があるように、産官学が共通の利益を持つ農業村も存在する。彼らは運命共同体である。その中では、それぞれの立場の違いから、いざこざも起きる。農協と農林水産省は、しばしば対立する。しかし、外に対しては、共同して同じ主張をしたり、行動したりする。
農林水産省など中央官庁の役所は、特定の利害から中立的だと思われているかもしれない。しかし、彼らが守ろうとしているのは、国民の利益ではなく、彼らの組織の利益、最終的には彼ら自身の利益であることが多い。情報は、彼らの利益や立場というフィルターを通して提供される。彼らにとって不利益な情報は、なかなか出てこない。また、情報を流す際も、役所の立場からの評価を入れて、説明する。コップの中の水が、半分もあるというのと、半分しかないというのでは、受け取る人は違う印象を持つ。
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