「バターが買えない」の裏にある不都合な真実 新聞報道は重要なポイントを見落としている

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第一に、バターや脱脂粉乳などの乳製品向けの生乳の供給量は、2010年には11.6%、2011年には9.2%の減少と、2013年の減少率8.1%よりも2年連続して大きく減少している。また、バターの生産量は、2010年に前年から14.5%、2011年は同10.1%減った。これも2013年の減少率8.3%を上回っている。それなのに、2010年、2011年に、なぜバター不足が起きなかったのだろうか?

2010年、2011年と2013年の違いは何なのか? 酪農・乳業界や農林水産省のプロでも気づかないことも、このようなシンプルな質問を発することにより、発見することができる。

第二に、生乳からバターと脱脂粉乳が同時に生産される。生乳から水分を除くと、脂肪分と脂肪以外のタンパク質や糖分などの無脂乳固形分が残る。脂肪分からバターが、無脂乳固形分から脱脂粉乳が、それぞれ生産される。これら乳製品向けの生乳供給量が減少したので、脱脂粉乳の生産量も、2010年に同12.6%、2011年同9.3%、2013年8.9%と減少している。しかし、バターと同じように、脱脂粉乳の生産も減少しているのに、なぜ脱脂粉乳は不足しないのだろうか?

これら第一と第二の疑問に対する答えが分かれば、バター不足の謎は、かなり解けたことになる。あとは、次の第三の疑問に答えればよい。

第三に、2014年の国際市場では、ヨーロッパの暖冬の影響で生産が増加したことや、ロシアの買い付けが減少したことなどで、需給が大幅に緩和し、同年10月のバターの価格は年初からは半分、前年比では4割も下落した。この傾向は、2015年に入っても続いている。同年7月の乳製品の国際価格指数(GDT)は2002年12月以来12年ぶりの低水準となった。中国経済の減速により、乳製品の需要が低下したのだ。

バターが世界では余っている。日本だけ足りない

なぜ、国際市場では過剰にあるバターが、国内市場では不足するのだろうか。モノは安い価格のところから高い価格のところへ、たくさんあるところから足りないところへ、輸出されるのが、普通の経済である。なぜ、海外から安いバターが入ってこないのだろうか?

酪農政策が規制改革会議で取り上げられるようになった。規制改革会議のメンバーの間に、バター不足を生じさせるなど、何らかの人為的な問題が関与しているのではないかという、直観のようなものがあるのかもしれない。ある意味で、この直観は正しいのだろう。しかし、やみくもに政府が悪いといっても、きちんとした分析がなければ、お門違いのところを攻撃することになりかねない。政府から、そんなことはありませんと言われて後ずさりしたり、逆にとんでもない提言をして事態を悪化させたりしかねない。

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