(第14回)<東国原英夫さん・前編>家出で人生を学ぶ

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●教師の言葉に後押しされ


 そのときの担任の先生に、みんなの前で殴られました。男の国語の先生でしたが、今まで体罰などしたことがなく、おとなしい人でした。おそらく先生が生徒を殴ったのはこれが初めてだったと思うのです。顔を紅潮させ、眉間に皺をよせて、目に涙を溜めて手が震えていました。そのとき私は、この先生に手をあげさせた自分を反省しました。「ここまで先生を怒らせてしまった」「哀しませてしまった」ということに。
 教室の中でみんなが見ている前でビンタをくらったのですが、その後、職員室に呼ばれて行くと、先生は、「さっきは悪かった」と言うのです。
「あれはしめしをつけなくちゃいけないし、君は少なからず反省してもらわなければならない。やっぱり心配や迷惑をかけてしまったから、そういった意味で俺は殴った。しかしやり方は悪かったが、君が夢を実現しようという態度、信念を持っているということに対しては高く評価する」 私にとって忘れがたい一言です。
 絶対に怒られると思いました。それが逆に褒められたような…。
 このとき、自分の中にある夢や目的意識や希望は持っていよう、持ち続けていようということを改めて思い、それで今こうなっているわけですけど……。あの家出は、やり方はまずかった。けど、方向性は正しいのだということを先生が裏付けをしてくださった。自信を持ちました。
自分がなりたいもの、やりたいこと、達成したいことというのは、自分で誇りを持ち、自信を持って人生を生きていかなければならない。生き方の教科書になった一番最初の事件でした。

●愛のムチは教育に必要だ

 その事件以来、生徒や親や学校の職員のみなさんから、自分のことをまるで宇宙人を見るような目線を感じました。「こいつは何をするかわからない、何を考えているかわからない」というのが、いつもあったような気がします。僕自身は先生の一言で解決していましたので、義務教育、あるいは高校ぐらいはきちんと出ようと思い、そんな突拍子のないことはするつもりもなかった。高校を卒業したら東京に行こうと思っていましたが。  あのときの先生の顔は忘れられません。指先が震え、唇も震え、目にいっぱい涙をためて……どっちが怒られているかわからないというくらい。  あれは「愛のムチ」ですね。のべつまくなし殴っているわけではなく、本当の意味での体罰。僕は教育には「愛のムチ」は必要だと思っています。殴る側の意識です。あのときの僕の場合は、先生の愛情が込められていましたからね。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司


東国原英夫<ひがしこくばる・ひでお>
宮崎県知事。1957年、宮崎県都城市生まれ。県立都城泉ヶ丘高校から専修大学経済学部入学。大学卒業後、テレビの『お笑い君こそスターだ!』(フジテレビ)のコーナーでチャンピオンになり、ビートたけしの一番弟子となる。芸能界で活躍。
2000年早稲田大学第二文学部入学。04年卒業と同時に政治経済学部に入学。06年大学中退。07年宮崎県知事選に立候補し、当選。第52代宮崎県知事に就任。
著書に、『宮崎発日本を変えんといかん』(発行・創美社/発売・集英社)『宮崎で生まれた改革の波は、そのまんま?東へ!』(KKベストセラーズ)『ゆっくり歩け、空を見ろ』(新潮社)など。
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