◎もうひとつのキーワード「手間をかけた感」
さて、この「ゆるい季節限定」に当てはまるものは、花以外にもある。たとえば、夏ならば、海や花火などいわゆる風物詩といわれるものがそれにあたる。しかしその中でも、花が好まれるのは、いったいなぜなのだろうか。
それは、花畑を訪れているという事実に「手間をかけた感じ」がするからだ。今回、ヒアリングを行った大学生たちは、花畑を訪れた選んだ理由を「(一面に花が咲いている風景は)東京ではなかなか見られない風景だから」と話していた。
つまり海や花火大会に比べて、ひまわり畑には既視感がないことが、一部の若者たちの関心を引いているのだ。海や花火は、サークルなどのイベントで楽しむ定番の行事と化している。そのような誰もが行う一大イベントで撮った写真よりも、そこまで広くは浸透していない花畑で撮った写真の方が物珍しい印象を与え、ほかとは差別化できるのではないだろうか。わざわざどこかの花畑まで向かったという「手間をかけた感じ」が、季節感のある写真の中でも少しグレードが上の写真に見せてくれているのだろう。
少数派でも、面白かった意見
今回のヒアリング調査では、いくつかの興味深い声を聞くことができた。それは、「就活の息抜きで花畑に行く」「男子が花畑に行きたいと誘う」というものである。
◎就活の息抜きで花畑へ
ゼミ仲間とともに、就活の気分転換にネモフィラ畑(茨城県)を訪れたCさんは、その時のことを「涙が出るレベルで楽しかった」と振り返る。その際のFacebookの投稿には「今日充電した分、また5月から就活頑張ります」とコメントしていた。今回の事例で取り上げたように、彼女に限らず、花畑に行く人には多くの大学3~4年生が含まれていた。
主に、家と大学と会社(就活先)の行き来を繰り返している就活生には、それらから距離を置き、思い切りはしゃげる場所が求められているのかもしれない。
◎男子が花畑に行きたがる
次に、男子が花畑にいきたがるという現象だ。2015年、「女子力男子」という言葉が誕生し、話題となった。女子力男子とは、一般的に女性の関心や能力が高いとされていた分野において、優れた能力や高いモチベーションを持つ男性のことを指す。料理上手な速水もこみちさんやぬいぐるみ好きの羽生結弦選手などがその代表として挙げられた。そのような流れの中で、若い男性の間で「女子っぽい」とされていたものに対する興味を口にすることへの抵抗が少なくなったのではないだろうか。男性も「花畑に行きたい」と口にしやすくなった結果、男子が企画して花畑を訪れるという人たちが登場したのではないか。
今後さらに、男性が密かに関心を抱いていた「女子っぽい」ものへのニーズが高まっていくのかもしれない。
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