片山幹雄・シャープ社長--日本でのものづくり見直し、地産地消型へ仕組みを大転換
--液晶パネルは巨額投資を要する装置産業ですが、パネルのコモディティ(汎用)化が進み、投資回収はどんどん難しくなっています。今回表明した海外合弁戦略の背景には、今までのやり方では巨額投資の回収シナリオが描けなくなったという事情もあるのでは?
回収できなくなった、というのは適切な表現ではない。当社はこれまで技術力を武器にパネル工場のガラス基板大型化で業界の先頭を走り、それによってコスト競争力を確保する戦略をとってきた。しかし、ガラス基板大型化による効率化もそろそろゴールが見えてきたと感じている。最初に造った亀山第1(2004年稼働)はラインに流すガラス基板が畳2枚分、亀山第2(06年稼働)でさらに大きくなり、これから動かす10世代の堺は畳5枚分にも相当する。常識的に考えて、一般家庭や業務用でニーズがあるのはせいぜい堺で作る60インチ台までだろう。需要のあるサイズ、費用対効果などを考えると、今までの延長線で12世代、14世代とガラス基板をより巨大化させていく必要性は乏しいと思う。むしろ、これからは、堺までの自社工場で培った技術をベースに新興国市場で横展開し、さらに儲けの幅を広げるべき時期が来たという判断だ。
--そうは言っても、もはや液晶事業でかつてのような高収益を取り戻すのは至難に想えます。
そうは思わない。元の強さに戻すどころか、さらなる利益成長を狙っている。メディアは、まるで液晶産業が終わったかのような騒ぎ方をしているが、私に言わせれば、何もわかっちゃいない。先進国の市場成長率は鈍るだろうが、新興国における液晶テレビの普及はまさにこれから。中国だけを考えても、巨大な人口を背景にもの凄い数の需要が出てくる。あと数年もたてば、北米、欧州を抜いて世界最大の市場になるだろう。インドはまだ薄型にもなっていない。そういった今後の成長市場を攻略できるかどうかが重要で、そのためにビジネスモデルを変えるのだ。
--製品としての液晶テレビ事業はどのように展開していく方針ですか。
会社の経営を考えると、こんな大赤字を出した状態で、台数を伸ばして売り上げだけを追う戦略はとれない。当社の液晶テレビの今年度販売計画は前期並みの1000万台。台数自体は昨年と同じだが、1台当たりのサイズを大きくして収益性を改善させたい。北米、欧州とも無理して台数は追わず、採算重視でいく。
ただし、先ほどから申し上げている中国に関しては話が別。中国はこれからの液晶テレビ需要を牽引する最重要マーケットであり、絶対に落とせない。アグレッシブに台数、シェアをとりにいく。中国では32インチで日本円にして5万円以下の液晶テレビも近く発売する。中国政府の家電下郷(=内需拡大のため、政府が農村部の家電製品購入者に補助金を出す制度。政府が定めた価格、設計などの基準を満たした特定機種のみが対象)を睨んだ製品で、このほど家電下郷のカラーテレビ対象機種として認可を受けた。びっくりするような値段だが、内部のチューナーや部品などをすべて見直し、徹底的なコストダウンを図ったモデルだ。一時に比べて中国における当社のシェアは落ちているが、こうした普及商品の投入で一気に挽回できるだろう。