片山幹雄・シャープ社長--日本でのものづくり見直し、地産地消型へ仕組みを大転換
--新興国市場の台頭と交易条件、その2点が根底にあると……。
そのとおりだ。わかりやすく、中国を例に取ろう。今までは日本からパネルを輸出するやり方でもよかった。なぜなら、現地での液晶テレビの購入層が富裕層に限られ、そうした富裕層がハイエンドの高額な商品を買ってくれたからだ。しかし、これから起こる需要の本格拡大局面では、現地の一般的な消費者のニーズに合った商品を供給していく必要がある。すなわち、価格の安さ、コスト競争力がより重要になるということだ。
一方で、為替の優位性ですごい競争力を身につけた韓国、台湾勢が、これから本格的に中国市場へ乗り込んでくる。そのときに、今のような為替や高い労働・インフラコストといった国内生産のハンディを背負った状態で、われわれは本当に彼らと戦えるのかと。同じ土俵で戦うには、普及品は現地で一から作って現地で売る「地産地消」モデルがどうしても必須になる。これはロシアやインドなど、中国に続く他の新興国でも同じだ。
--為替の問題だけを考えるなら、亀山と同じようなパネル工場を中国に自前で造ればいいじゃありませんか。なぜ現地企業との合弁で、しかもシャープ側のマイノリティ出資で工場を展開する必要があるのですか。
合弁戦略でやろうというのには、いくつかの理由がある。もちろん、投資負担を抑えたいというのも理由の一つ。経営リスクの観点からも、投資負担は小さいほうがいい。第二に有利な競争条件で戦うためだ。これから液晶パネル工場を造る舞台は、需要が伸びる新興国。そういった国々の政府は、いずれ液晶のようなハイテク産業を国内で育成するため、自国企業や自国企業が過半を出資する合弁工場に補助金や税制面などの支援策をとるだろう。特に中国はその可能性が高く、そうした中国政府の政策を見据えて、韓国、台湾のパネルメーカーも現地企業との合弁工場展開に向け水面下で動いている。当社単独で工場を造ったところで中国政府によるサポートは期待できず、現地での競争条件も不利になってしまう。あえて出資比率を少なくするのは、現地にインサイダー化するための手段でもある。
--しかし、大事な生産技術が合弁相手に流出してしまうのでは?
合弁といっても、製造設備の手配や工場の立ち上げ、ラインのオペレーション、生産設備のメンテナンスなど、生産・開発、工場に係わるすべての業務はシャープが担当する。この点は、工場を合弁展開するうえでの大前提。そうした仕組みによって、当社は技術・ノウハウ提供の対価を得られるし、技術流出も回避できる。
--合弁工場による儲けの柱は、技術・生産ノウハウ提供に伴う手数料収入になるのですか。
うちのやろうとしていることが丸裸になるので、詳しくは言えない。ただ、誤解のないように付け加えるなら、当然、当社はテレビメーカーとしての利益も追う。合弁工場で作ったパネルは一定量を当社が買い上げ、最終製品に組み立てて現地で売る。そうした生産・販売利益に加えて、技術対価ももらうということだ。今後の当社の収益基盤が技術指導の手数料収入だけになるとか、そんな単純な話ではない。