日本は「格差社会」である前に「階級社会」だ

「階級」を意識しない不毛な教育議論

Class societyを日本語にするなら、適語は「階級(階層)社会」となるだろう。「格差」と「階級」の違いを簡単に説明すると、格差とは社会の中で所得や待遇に差が生じている「結果」に重点を置く言葉で、階級・階層とは育った環境のような「社会的背景」に重きを置いた言葉である。

サッカー選手のデビッド・ベッカム氏が日本に紹介されはじめたころ、しばしば「中流階級出身」という言葉が使われた。ベッカム氏は、結果を基準とする「格差社会」の中では最上位層に位置する一方、「階級社会」の議論では中流出身ということになる。しかし、サッカーを通じて社会階級を乗り越えたベッカム氏の子供は、上流階級の出身ということになるだろう。

日本の状況を述べる前に、まずはイギリス、アメリカの例を紹介しよう。筆者はケンブリッジ大学、オックスフォード大学で学んだが、両校が特殊な大学であることはそこにいる人々を見れば明らかだった。親が著名な学者だったり、政治家、医者、会社役員だったりという学生がとても多かった。そんな学生達と話をした後の帰り道では、ホームレスの人たちが日銭を求めて声をかけてくる。イギリスでは、労働者「階級」と、中流「階級」、資本家「階級」の存在を、日常からも歴史からも感じることができる。着ている服も違うし、話す言葉にも違いがある。

また、アメリカ社会においては人種によって明確に年収に差が出ている。肌の色という明確な違いにより、「階級・階層」はより強く社会の認識を生むのである。

生まれた階級による格差は、世代を越えて影響を及ぼすことが特徴である。そして、それが子供の教育に与える影響が大きいため、1960年代の公教育の量的拡大の頃からイギリス、アメリカでは盛んに議論され、対策が取られてきた。格差と犯罪発生率には相関があること、そして格差の是正に教育が果たす役割が大きいのもひとつの要因である。教育は社会的地位を高める手段として広く考えられているのだ。しかし、両国ともその対策はうまく機能していない。

日本は「階級社会」である

さて、日本社会ではどうであろうか? 結論から言うと、日本ではイギリス、アメリカと同等かそれ以上に、親の経済力・学歴、出身地(都市のほうが有利)が子供の学歴に影響を与えている(苅谷剛彦著『大衆教育社会のゆくえ』〈中公新書、1995年〉に詳しい)。確かに、大学時代を振り返っても、そうだった。そんな現実の一方で、教育に関する話題の中心は最初に述べたような「子育て論」や「教育方法」ばかりなのである。日本も、出自による格差が強く固定化した「階級・階層社会(Class Society)」化が進んでいるにもかかわらず、結果のみを見た「格差社会」という言葉ばかりが使われているのだ。

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