日本の「貧富の格差」を是正する5つの具体策 アトキンソン「21世紀の不平等」に学べること
トニー・アトキンソンはさまざまな分野に貢献
2015年のノーベル経済学賞の受賞者はたぶん、『21世紀の不平等』の著者であるトニー・アトキンソンと予想していた。経済学の学術論文の高い貢献度、そして福祉国家論を先導して所得分配の平等を達成するための経済政策や社会保障分野における提言の重み、さらに大学院生と学部生にとって必読の教科書を出版していることも貢献のひとつである。
ところが、である。ノーベル賞選考委員の選択は、アンガス・ディートンという予想外のものだった。アトキンソンとディートンの2人はほぼ同じ時期にケンブリッジ大学で学んでおり、先生もリチャード・ストーン(ノーベル賞受賞者)だ。2人の関係は密なところに、昨年の受賞に関しては白と黒という正反対の結果となってしまった。
余談だが、実はノーベル賞発表時、アトキンソンが受賞したときに備え、『日本経済新聞』の「経済教室」の解説文を書くために待機していた。結果は、アトキンソンではなくディートンの受賞となり、解説文の執筆はないだろうと思っていたところ、ディートンの解説文を書いてほしいと依頼があり、ディートンの受賞の解説文を執筆することとなった。とはいえ、ディートンも格差の問題に関して高い貢献をしており、受賞にふさわしい仕事をしたことを強調しておこう。
ディートンが発展途上国の格差の専門家である一方、アトキンソンの主たる関心は先進諸国における格差や福祉のことにある。私の専攻と近いところから彼の業績にはつねに注意を払ってきた。しかも幸いなことに1985年に彼が当時いたLSE(ロンドン経済政治学院)に、彼が所長をつとめていた研究所から客員として招かれて滞在し、個人的な付き合いもあった。
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