日本の「貧富の格差」を是正する5つの具体策 アトキンソン「21世紀の不平等」に学べること

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経済効率性や自由な経済活動を尊重する人々が多いのは、米国・イギリスといったアングロ・アメリカン諸国に多いということを忘れてはならない。イギリス人であるアトキンソンは本国内でこの意見を持つ人が多いことを意識して、本書で政策を提言しているということに気付く必要がある。現に本書はイギリスの実態を元に記述した面が多いので、提言の対象国も主としてイギリスとみなせるのである。

米国が非福祉国家であることは誰しも知るところであるが、ヨーロッパはイギリス以上に福祉国家である国が多い。代表的にはスウェーデン、デンマーク、フィンランドなどの北欧諸国であるし、大陸諸国のドイツ、オランダ、フランスなどもイギリス以上の大きな政府で、福祉制度もイギリス以上に充実している。アトキンソンは、イギリスがこれらの国のようになってほしいという願いを込めて本書の出版をしたのではないかと想像している。

人々が犠牲にならない技術進歩を

さらに重要なことは、福祉を充実すると経済活性化にとってマイナスになるという思想に対して、本書の中で詳しく反論している点に特色がある。福祉の提供は経済効率や経済成長を達成するに際してスケープゴート(生け贄)にされている気配があるということを、理論的かつ実証的に証明している点が重要な貢献である。

一般に経済効率性と公平性(平等性)はトレードオフ関係にあるとされるが、アトキンソンには、政策のやり方によってはその両方を満たすことも可能である、との信念があるように映る。では具体的な政策は何かということになると、それは本書を詳しく検討することをお勧めする。

私が15の提言の中で新鮮さを感じたのは次の2つである。第1に、経済の生産活動においては経済成長のために技術進歩の必要なことは多言を要しないが、アトキンソンはそれが過度に労働節約的にならないような配慮が必要としている。あまりにも資本ないし機械に頼りすぎになると、人々の働き場所、あるいは勤労に対しての賃金支払い分が犠牲になる可能性を危惧するからである。

イギリスの産業革命時に「ラッダイト運動」があった。機械の導入は人から労働を奪うことになるので機械を破壊する、という運動である。昔と今では時代が異なるので当時の論理は当てはまらないが、一部の有能な人だけが高度な技術進歩に対応できて高賃金を得、それに対応できない人は取り残されることがあっては困るので、アトキンソン流のセーフティネット論と解釈しておこう。

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