日本の「貧富の格差」を是正する5つの具体策 アトキンソン「21世紀の不平等」に学べること

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第2は、一般の庶民もある程度の貯蓄、ないし資産を保有できる社会にしたい、という主張である。資本家と労働者の対立は社会主義思想を生むことにつながったが、ピケティの書物は現代の資本主義では高所得者・高資産保有者はますます富裕化するメカニズムがあると主張したのである。

アトキンソンはイギリスの資産格差をこれまで丁寧に分析してきたので、イギリスの資産分布が非常に不平等であることを知っていた。そこでごく普通の人もある程度の資本、資産を保有できるような制度にするとよいとした。

その心はごく一部の富裕者だけがべらぼうな高資産を保有するのではなく、多くの人が多額ではないがある程度の資産を保有する社会になれば、中間層が充実することになるので、格差社会の是正につながるとアトキンソンは考えたと想像できる。

日本で深刻な貧困の連鎖、老老格差

最後に、日本の格差の現状を述べておこう。本書の源となったアトキンソンの論文「After Piketty」では、貧困の問題や男女格差、健康格差などがこれからの重要な問題になるとの指摘がされている。

それに刺激を受け、日本の格差問題について研究してきた筆者は、男女間格差、高齢者の間に横たわる健康格差と老老格差、高所得者に高税率を課することの是非、格差拡大は経済成長にとってもマイナス効果、といったことを分析している(詳しくは、近著『貧困大国ニッポンの課題』(人文書院)、『21世紀日本の格差』(岩波書店)を参照)。

シングルマザーの貧困は、子どもの貧困と結びついており、貧困の連鎖につながる。また、高齢者の老老格差は、若いときの経済格差がそのまま高齢者になったときの健康格差や平均余命の差である。格差がじわじわと蓄積されて暗い将来につながってしまう日本でよいのか、『21世紀の不平等』の15の提案を土台にして、読者のみなさんも考えて欲しい。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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