日本の「貧富の格差」を是正する5つの具体策 アトキンソン「21世紀の不平等」に学べること

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アトキンソンとのもっとも印象的な思い出は、昼食時に私が「クリケットのルールがわからない」と言ったら、クリケットの試合に招待してくれて、1日かけてルールを詳しく教えてくれたことだ。ただ、日本ではクリケットの試合はほとんど見ることができない。クリケットは米国で開発された野球の源なので、野球狂の私にとってもクリケットに接する機会のないのは残念である。

「最低賃金を上げよ」

長い前置きになってしまったが、今回の『21世紀の不平等』の出版について述べよう。本書は必ずしも専門家だけを念頭においたものではなく、むしろ読者の対象を一般の人々にした啓蒙書なので、誰でも読むことができる点に特色がある。

とはいえ彼の著述内容は、彼が何十年にもわたって思考を重ねて発表してきた専門的な書物と論文を背後にしながらのものなので、決してうわべをつくろって一般受けだけを狙ったものではない。専門的に裏付けのある説得力の高い主張なので好感の持てる書物となっている。

本書で主張される提言は15個である。ここでそれらを全部紹介する余裕はないが、私から見るとその真髄は次の5つである。すなわち、「所得税の累進度を高めよ」「相続税と資産税を確実に徴収せよ」「最低賃金を上げよ」「児童手当をもっと包括的に充実せよ」「年金や医療という社会保険制度のさらなる充実を」といったように、これまでアトキンソンが繰り返し主張してきた福祉国家論の立場に立った提言である。

これらの提言は日本でも有効である。イギリスは、日本より多少は福祉国家の程度が強いので、ここでの提言を日本に当てはめるなら、イギリス以上に強い程度のことをやらねばならないのである。

イギリスの最低賃金1200円、日本の最低賃金800円

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OECD諸国の最低賃金、2010年 (注)このグラフはその国の2010年の常勤収入メジアン値に対する比率で各国の最低賃金を示している。数値にはオランダの休日給与、ポルトガルとスペインの第13、14月給与が含まれる。 (出所)アンソニー・B・アトキンソン『21世紀の不平等』(東洋経済新報社、2015年)、図5-4。 (データ出所)国際労働機関 (ILO), Global Wage Report 2012/13, Figure 28.

代表例を挙げれば、イギリスの最低賃金は時間当たり1200円前後であるが、日本はようやく800円前後になっただけなので、日本ではもっと上げなければならない。『21世紀の不平等』でも、日本の最低賃金が米国やギリシャよりも低いことが示されている。

この提言に接すると、小さな政府論や新自由主義を信奉する人からは批判の声が殺到しそうである。特にこれらの主張は公平性や平等性に配慮したものなので、経済効率性を重視する立場からは賛成しかねる提言だからである。

次ページ15の提言の中で新鮮さを感じたものとは?
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