LNGロケットの七転八倒、衛星「標準化」の賭け

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 そして、衛星バス(プラットフォーム)の標準化だ。301条で実用衛星の道を閉ざされ、日本は一品ごとの独自性を追求する科学衛星に傾斜した。が、商用衛星はどこまで肉をそぎ落とすか。標準化は、“主流”の一品ものの対極にあった。

JAXAの試験設備を借りれば、JAXAに運び込むだけで1カ月の時間のロス。スピードを上げるために、三菱電機は100億円を投じ、自前の試験製造設備を持った。開発した標準バス「DS2000」は気象衛星「ひまわり7号」に採用され、商用衛星に必須の軌道上実績を獲得。昨年8月、DS2000をベースにしたスカパーJSATの「スーパーバード7」(唯一の日本製の実用衛星)が打ち上げられ、今回、シンガポールからの受注につながった。持続する志の結実である。

ライバルのNECも後に続こうとしている。NECは01年、東芝と衛星部門を統合し、06年に「開発中心から商用化も進める」(NEC・春日一仁宇宙システム事業部長)方針を打ち出した。狙うのは、科学衛星の蓄積を活用した小型地球観測衛星。地上支援システムやデータ解析など総合力で国際市場に食い込みたい。

もちろん、商用衛星の先駆者、三菱電機も官需の重要性を指摘することでは人後に落ちない。「世界の衛星の大半は国家需要。商用は20機前後。国の仕事がないかぎり、宇宙産業はありえない」(稲畑氏)。だが、官需は同時に、民の自主性を最大限鼓舞する戦略性を持たねばならない。艱難(かんなん)がDS2000を玉にしたのなら、分配だけが政策ではない。

この5月、日本の宇宙開発と宇宙産業政策を方向づける「宇宙基本計画」が策定され、夏には、H2Aを改造したH2Bが初めてHTVを宇宙ステーションに運ぶ。同じ夏、GXのLNGエンジンが500秒の燃焼試験に挑戦し、その結果をもって、GXの実証機を開発するかどうか、最終的な決断が下ることになる。

宇宙政策の戦略性が問われる“熱い夏”がすぐそこに迫っている。
(週刊東洋経済)

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