LNGロケットの七転八倒、衛星「標準化」の賭け
宇宙のビジネス化がいかに茨の道か。H2A以上に、厳しい現実に直面したのが、「GXロケット」だ。一般の知名度はゼロに近いが、GXは目下開発中の“もう一つの”国産ロケットである。
H2AとGXの違いは三つ。H2Aは打ち上げ能力6トンの大型ロケットだが、GXは4トンの中型ロケット。液体水素・液体酸素を燃料とするH2Aに対し、GXは2段目に世界初のLNG(液化天然ガス)エンジンを採用する。が、最大の違いは、開発の最初から、民間が取りまとめの主役としてコミットしたことだ。
H2Aがそうであるように、ロケットは開発の責任は国(H2AはJAXA)が持ち、開発完了後、実証機を民間が譲り受ける、というのが世界の共通パターン。が、GXは開発費450億円を経産省、文科省、そしてIHIを中心とする民間の3者が均等出資する約束で始まった。開発着手前年の01年には、GXの打ち上げ・製造・営業を担う民間企業「GX(ギャラクシー)エクスプレス」(IHI系が43%出資)が設立されている。
だから、昨年1月、IHIの爆弾発言で官民の宇宙村は引っ繰り返った。「民間主導と言った覚えはない。わが社のトップが『民間先導』と言ったことはあるかもしれないが、それは、政府の負担を一時肩代わりするという意味」(IHI宇宙開発事業推進部・川崎和憲部長)。
好事魔多し、GX費用は当初の5倍
JAXAは、IHIの“翻意”に納得していない。確かに、GXの前身はJAXA主導の中型ロケットだった。が、90年代後半、JAXAはH2の連続失敗から、H2Aの大改造に人もカネも集中せざるをえず、中型ロケットはやむなく中断。「そのとき、IHIが『民が主体的にやりたい』と手を挙げた。ビジネスチャンスあり、と見たのだろう」(JAXALNGプロジェクトチーム・今野彰プロジェクトマネージャ)。
当時はITバブルの真っただ中。年間300~400個の衛星打ち上げ需要が発生すると信じられ、衛星メーカーはロケットの青田買いに走っていた。今、手を挙げれば、つねに三菱重工の後塵を拝してきた万年2位から抜け出せる--。IHIの夢が膨らんだこと想像にかたくない。