LNGロケットの七転八倒、衛星「標準化」の賭け
国は、GXが「安全保障上の宇宙の活用」に使える、と判断したのである。早期警戒衛星やIGSを随時、機動的に打ち上げるには、基幹ロケットH2Aの万が一に備えた“控え”があれば万全だ。GXは米バンデンバーグ空軍基地を射場に使えるよう打診中だが、実現すれば、種子島の季節的制約(3~6月、10月は打ち上げに制限)もクリアできる。
何より、ロッキードのアトラス5を1段目に使い、日米共同開発となるGXは、安保上、二重丸なのだ。
JAXAも、結果オーライだ。LNGエンジンは07年、とにもかくにも、270秒の燃焼実験に成功し、欧米・ロシアを引き離したのである。実のところ、ロケットの打ち上げ能力では、LNGは液体水素の敵ではない。「打ち上げ用だけなら、何でこんな効率の悪いことを、となる。が、GXにLNGエンジンを使うのはツナギ。LNGは、宇宙空間での使い方を見ている」(今野氏)。
宇宙空間でマイナス253度の液体水素はマイナス161度のLNGより早く蒸発する。密度が大きいLNGは燃料タンクも小さくて済む。数十日以上の宇宙滞在、惑星探査にはLNGエンジンが最適なのだ。
だが、GX復活は、想定外の波紋を広げることにもなる。狭い日本市場に、2系列のロケットがひしめくのだ。IGSなどせっかくの新需要効果が減殺されることになる。日本の航空機産業は、防衛需要が複数企業に分割発注され、結果、産業力の拡散につながった苦い歴史がある。
下手をすれば、企業とJAXAの開発の方向性にも、齟齬(そご)が生じかねない。三菱重工がH2Aで目指すのは、徹底的に技術を枯らし、トラックに近づけること。「むやみに変えず、成熟させる。一気に変えると、一気に人もいる」(淺田部長)。
JAXAはよりドラスチックだ。「ロケットは陳腐化する。基盤開発を継続しなければ。H2Aの改良も、コストを半分、10分の1にするような技術革新。たとえば、固体燃料・液体燃料エンジンの組み合わせを液体燃料だけの大型1基にすれば、コストは3分の2になる。“次”を見据えながらやる」(JAXA・遠藤守チーフエンジニア)。