LNGロケットの七転八倒、衛星「標準化」の賭け
GXは、いかにもビジネス的な計画だった。ロケット1段目は米ロッキードの「アトラス3」をそのまま買ってきて、安く、早く(開発期間は3年)上げる。2段目をLNGエンジンとし、JAXAの「世界最高水準を」というDNAを満足させ、政府資金を引き出す大義とする。
だが、GXは、好事魔多しの典型となった。ITバブルがはじけ飛んだうえに、通信衛星は地上の光ファイバーに完敗。年間400個が20個の市場に縮んでしまったのだ。
肝心のLNGエンジンの開発も手こずった。JAXAは宇宙の極低温に耐える炭素繊維複合材のタンク、という最難関に挑戦したが、あえなく失敗。噴射器・燃焼室の設計も見直した。そうこうするうちに、調達するはずのアトラス3が生産中止となり、1段目を最新のアトラス5に切り替えることになる。1段目と2段目のインターフェースを含め、全面的な設計変更を余儀なくされた。
JAXAとGXエクスプレスが共同提出した見積書によれば、GX開発には今後、最大1400億円強の追加投資が必要になる。ここまですでに推定650億円が投下済みだ。最初の見積もりには実証機や射場の整備費が含まれていないとはいえ、トータル2000億円超は、当初計画450億円の5倍近くとなる。
IHIの川崎部長は「民間支出の500億円のうち300億円前後がIHIの負担」と言う。「逃げるのか、と言われる。いや、カネはイヤというほど使った。そっち(国)こそ逃げないでくれ。われわれのドライバーズ・シートに座ってくれ」。
IHIは07年度、海外工事やボイラー部門で大穴をあけ、308億円の経常赤字となっていた。お上への遠慮や外聞を気にする余裕は、とうの昔になくなっていたのである。
「安保」で復活 新たな“拡散”も
ドライバーズ・シートから運転手が消えたGX。文科省の宇宙開発委員会は開発中止に傾き、昨夏、自民党の無駄遣い撲滅委員会はGXの凍結を提案した。GXは死んだ、と誰もが思った。ところが--。
GXはよみがえった。流れを変えたのが、宇宙基本法であり、北朝鮮の脅威である。宇宙開発戦略本部の豊田事務局長が言う。「日本が中小型ロケットを持つ意味があるか、と聞かれれば、答えは、明らかにイエス」。昨年末、事務局がまとめた「宇宙基本計画の基本的な方向性について」はGXについて、「今後は国が主体となり」「技術の完成度を高める作業を進める」としている。IHIの要望どおり、国が運転手席に座ったのだ。