以下の、過去数年の先進国との比較が筆者の念頭にある。リーマンショック後の2009年以降、米国などの先進国において時間は要したが経済・市場が安定化を実現した要因には、金融政策を中心に経済安定化政策が徹底されたことがある。米国では大手銀行の国有化などの金融システムを守る政策が実現し、その後もデフレ防止のためのFRBによる資産大規模購入政策が続いた。
欧州では債務危機発生に対して、政治的な制約を打破しECBが周縁国の国債購入開始に転じて、悪循環から抜け出し欧州経済はマイナス成長から抜け出した。日本では、安倍政権誕生とともに日本銀行執行部の交代が重なり、金融政策の転換で、株高と超円高の修正と脱デフレの正常化のプロセスが始まった。
通貨安容認か資本規制を強化するか
中央銀行によるアグレッシブな対応が効果を発揮し、経済安定化政策として役割を果たした共通点がある。中国が構造調整を進めている点で先進各国と異なるが、人民銀行が政策金利を低下させる余地はあるし、2015年央からの政府による財政政策の発動が動いており、それが一定程度経済安定化をもたらしている。成長率の下支えや金融システムを堅持させるために、中央銀行の金融緩和が強化されれば良い。ただ、政治的な意向が中央銀行の政策判断に影響し、金融緩和が十分行われるかどうか不透明である。供給サイドの改革が、政治的に優先されているという観測も報じられている。
さらに、為替市場の自由化を進める一方で、人民元レートの安定化を優先せざるをえないジレンマもある。中国では景気過熱の兆候はなくインフレ率が低位安定しているが、通貨を安定させる為替介入を続けているため、十分な金融緩和策を行うことが難しい制約に中央銀行が直面している。今後も人民元が割高だと認識され通貨安圧力に直面し続ければ、金融緩和政策が十分機能しないリスクがある。
景気停滞に対して中央銀行がアグレッシブな金融緩和に踏み出すことが難しく、経済政策の制約が厳しい状況に陥っていれば、中国に起因するリスクに対する市場の疑心はなかなか収まらないかもしれない。一時的な市場心理の揺らぎで、金融市場が変動するだけならそれは投資機会の提供ですむが、仮に政策対応が不十分で新興国経済が失速するなど停滞が長引けば、2016年の世界経済の大きな足かせになりうる。
なお、理論的には、中国人民銀行が金融緩和を徹底するには、通貨安を容認するかあるいは資本規制を強化するかが必要になる。12日に、オフショア市場での人民元の介入と同時に、短期金利上昇によって流動性を絞った。限界的であるが資本規制に踏み出した側面がある。これは長期的な資本自由化の動きと相反するが、当面の金融市場安定や金融緩和による経済下支えを優先させる政策に転じたことを示唆すると、当社エコノミストは考えている。この政策が持続可能ならば、筆者が最も懸念するリスクが今後低下することになる。
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