映画「ピンクとグレー」、幕開け62分後の衝撃 行定勲監督が語る青春映画への思い

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――人生はこれだと言い切れるほど単純なものではないと。

初主演の中島裕翔はじめ菅田将暉、夏帆、柳楽優弥ら、若手実力派が集結(C)2016「ピンクとグレー」製作委員会

これを見た時に、生きることと死ぬことの曖昧さというか、その曖昧さの中で生きているんだなと感じると思う。青春映画なのに、非常に人生を俯瞰して見ている映画になった。それは僕が47歳にして、この青春を俯瞰して観ているからなんです。これが20代後半や30代前半くらいだったら、もっと寄り添っていたと思う。もしそうならそれは小説を書いた加藤シゲアキくんと同じ視線なんですよ。彼は生と死を非常にストイックに見つめているのですが、僕はそうではない。

若いころ、僕の友達も何人か自殺をしました。当時は、「何でだよ」というようないたたまれない気持ちや、怒り、憤りなんかを感じたりしていました。でも年を重ねた今の気持ちからすると、それはないんですよね。もちろん残念なことなんですが、理解できるようになったというか。そうでしかなかったんだろうな、と。一緒になって感傷的にもなるわけでもなく、かといって冷たいわけでもなく。ただ受け止められるようになった。

――そういう俯瞰した気持ちで「青春」を描くということは?

僕がこの青春小説を渡されたときに、距離をもって見ているんで、逆にエグくなった部分はあったと思う。主人公たちをもっと痛めつけてやろうと思ったり、いじめ抜いたうえで、彼がどういう顔をしているのかを映し出そうと思ったり。

昔、僕が監督をした『GO』という映画を深作欣二監督が見ていた時、そういうことを言っていました。「すばらしい映画、あんたみたいな若い人が撮ってキラキラまぶしかったよ。俺が撮ったら、もっとエグかったな。でもあんたが撮ったのはこれでいいんだ」という言葉がすごくうれしかった。

でも、その「エグかった」というのは何なんだろうとも思っていました。当時、深作監督は70歳くらいだったと思いますが、今の僕はそれよりももっと若いですが、それでも『ピンクとグレー』をやってみて、そういうことがわかるような年齢の入り口に立ったのかなと思いました。

昔の青春映画は大人も見ていた

――もちろん中島さんや菅田さんのファンは劇場に足を運ぶと思いますが、それ以外にもっと違う層に広がってもいいと思うのですが。

若い人たちが出ている映画は若い人たちが見ればいいのだというのは大きな間違い。年を重ねた人間こそ、青春映画は理解できるのだと思う。若いときは、自分たちの世代に共感して見るのだと思うのですが、でも作っている側はもっと大人じゃないですか。

そういう意味でいうと、大人も見るべきなんだと思います。宣伝としても、どうしても絶対に来てくれる人に絶対に届くようにとしてしまうから、なかなか大人の観客に届かない。そうすると大人は距離を持って見てしまうから、それが残念だなと思う。昔の青春映画は大人も見ていたんですよ。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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