僕が「アルメニア人大虐殺」を題材にした理由 ファティ・アキン監督が語るタブーへの挑戦

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オスマン・トルコ国内で起こった、アルメニア人虐殺という歴史的タブーを題材にした注目作© Gordon Mühle/ bombero international
世界三大国際映画祭のすべてで主要賞を受賞した偉業をもつファティ・アキン監督。第71回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された彼の最新作『消えた声が、その名を呼ぶ』が角川シネマ有楽町ほかにて全国順次公開中となっている。
のどを切られ、声を失った父親が、生き別れになった娘を探して過酷な旅を続けるさまを描き出した本作は、100年前にオスマン・トルコ国内で起こった、アルメニア人虐殺という知られざる歴史的事件を物語の出発点にしている。
ヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたと言われるこの事件の犠牲者数は100万人とも150万人とも言われ、今なおアルメニア政府とトルコ政府の見解が一致していない。トルコでは歴史的に最大のタブーと言われており、この歴史を題材にした映画は非常に少ない。
制作にあたり、世界各国の名匠たちから厚いサポートを受けたという本作。作品の全体像についてはマーティン・スコセッシ監督が、壮大な物語の撮影方法についてはロマン・ポランスキー監督が、そしてアルメニア人の物語を描くにあたってはアルメニア系カナダ人のアトム・エゴヤン監督がそれぞれアキン監督にアドバイスを送っている。
また、共同脚本にはマーティン・スコセッシ監督の『レイジング・ブル』を手がけたマルディク・マーティンを起用。彼にとっては実に30年ぶりの脚本家としての参加となった。
今回はこの歴史的タブーに果敢に切り込んだ若き巨匠ファティ・アキン監督に、本作にかける思いを聞いた。

タブーに切りこむ気概が多くの人を巻きこんだ

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――本作ではマーティン・スコセッシの『レイジング・ブル』『ミーン・ストリート』などを手がけた伝説の脚本家マルディク・マーティンが30年ぶりに脚本を手がけたそうですが。

もともと英語で脚本を作ろうと思っていたんだけど、それをただ翻訳するのではなく、共同脚本家としてネイティブな人にやってもらいたいなと思っていた。そんな時、たまたまスコセッシ監督の『ミーン・ストリート』を手がけたのはイラク人じゃなかったっけ? と思い出し、それで調べてみたら、なんとアルメニア人だったということがわかり。それでもう彼しかいない、助けてもらおうと思ったんだ。

平凡で善良な男の宝物は、双子の娘たちが自分の名前を刺しゅうしてくれたスカーフ© Gordon Mühle/ bombero international

それで電話をしてみたら、これがまたとんでもない頑固オヤジだった(笑)。自分はもう辞めているから、そういう話を持ってこないでくれとブツブツ文句を言われてね。それでも脚本を送ったらとても感動してくれた。アルメニア人の大虐殺について描くんだという意志、気概に心動かされたみたいで。「これなら来てもらっても構わない」と言ってくれたんで、会いに行くことにしたんだ。

実際に会ってからは彼と友人となることができた。執筆中は非常に愉快だったからね。彼からは非常に多くのことを学んだし、年老いた叔父と一緒に仕事をしているような気分だった。

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