トリプルアクセルとの「幸福な決別」が示す道 全日本での失敗は浅田真央の分岐点になった

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それだけではなく――。「大人」という抽象表現と柔らかい口調でおぼろげに理解されないかもしれないが、これは以前の自分との、そしてアクセルとの決別宣言ともとれる。「もう私はアクセルだけにこだわらない」、そんな覚悟が透けて見えた。

では実際にふたを開けてみるとどうだったのか。事情は少し違った。やはり自分だけの武器だった大技とのつながりは深く、深く。長年連れ添った伴侶のように簡単に別れられるものではなかった。復帰戦となったジャパン・オープンから次戦の中国杯までの3回の演技機会で3回とも成功させたまでは、その存在が大きくなることはなかった。決めたことで自ら語った「大人の滑り」を体現するにあたっての一要素として済んでいた。

試合の歯車を狂わせるアクセルの失敗

状況が変わってきたのは続くNHK杯から。ショートプログラム(SP)で今季初の転倒をすると、課題とする3回転ルッツにもミスが出た。直後のコメントは「中国杯のようにアクセルを決めると気持ちも乗ってくるというのが一つあって」。翌日のフリーでは2回転半になり、後続のジャンプにも立て続けに乱れが生じた。直後のコメントは「気持ちと動きが一致してない。ちぐはぐしていたなという思いがありました」。

狂い始めた歯車は、続くグランプリファイナルで決定的となった。SPではアクセルに成功したが、フリーでは再び暗転。着氷が回転不足で乱れると、片手をついてこらえるのが精いっぱい。以降も不安定な跳躍を並べ、「自分のタイミングとリズムと気持ちがあってない。全部失敗したくないという気持ちが強すぎるのかな」。「空回りしている」と混迷を極めた。

NHK杯も踏まえて佐藤信夫コーチが言ったのは「やはりアクセルに引きずられる部分はあるのだと思う」。少なからず本人も再確認していたであろうアクセルとの密接な関係性が、浅田は大丈夫かと思わせた2試合の低迷を象徴していた。

迎えた全日本選手権。SPでは軸が傾き、回転不足で足元が乱れて大きく減点された。2戦続いた流れはここでも。「うまくいかない試合が重なると、良いイメージに持っていくのが難しい」という悪循環に苦しむ心理を本人が吐露したことで、「大丈夫か」の声はさらに大きさを増した。そんな周囲の目があるなかで臨んだのが、冒頭に記したフリーだった。

不振を象徴するような大きな転倒。流れは最悪に一層近づいていくような失敗にあって、いよいよ浅田の心境は変わっていた。

「悔いはないな」

その瞬時の割り切りが、それまでの試合とは一変する「それ以降」の合図だった。直後の連続3回転ジャンプこそ単発になったが、以降は鋭く、鮮やかにジャンプを決めていく。

「ジャンプ以外もいまできる精いっぱいを滑れた。今シーズンいちばんのフリー」だったと、そう言い切れる自分がいた。それは確かに、これまで見たことがない浅田真央だった。

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