トリプルアクセルとの「幸福な決別」が示す道

全日本での失敗は浅田真央の分岐点になった

「大人の滑り」と発言し、すべてを見てほしいと浅田が言ったとき、頭に浮かんだシーンがあった。それは画家の山口晃を追ったテレビドキュメンタリーで、アトリエの白いキャンバスをじっと見つめる姿だった。

正確な発言は覚えていないが、その時に「最初の一筆までがいちばん時間がかかるんですよ」と取材側にこぼしていたと思う。後日その著書「すずしろ日記2」を読む機会があったのだが、画家による漫画という異色の作品のなかで、同じ苦悩が吹き出しとなっていた。言葉だけ抜き出すと「『ぼーっとしている』のは別にサボっている訳じゃなくて、思案したり、クールダウンしたり、目をやすめたり。と、いろいろだがその最たるものは『怖くて描けない…』だろうか。絵を描くというのは何かを生み出すと云うより、山のようにある『その他の可能性』を一筆ごとに削り捨てていく作業だ」。表現することは何かを作り上げるのではなく、何かを削り捨てていくこと。そのような趣旨と理解する。

一人のスケーターとして目指す領域

フィギュアスケーターと画家。表現するということについては通底することがあると思う。浅田の「ジャンプ以外も見てほしい」という言葉を聞いたとき、この人は競技者であること以上に、表現者としてリンクに戻ってきたのだと感じた。だからこそ、トリプルアクセルという一つのジャンプが突出することは、他の要素を削り捨てていくことにほかならない。それだけに引きずられることは、本人が最も忌避したことなのではないかと。

NHK杯、グランプリファイナル、そして全日本選手権のSPと失敗することで、その関係性の深さが浮き彫りになっていた。だからこそ、フリーでの失敗に対して割り切れたことが、今後の分岐点になると見ている。

浅田の復帰理由は「まだやりきっていない」だった。それはジャンパーとしてではなく、一人のスケーター、表現者としてであろう。トリプルアクセルとの「幸福な決別」は、25歳のベテランスケーターの目指すべき領域への道しるべになる。だからこそ、2016年の浅田真央は面白くなる。

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