目標より習慣が大事 普遍性の高い学びを--『21世紀のキャリア論』を書いた高橋俊介氏(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)に聞く
欧米や新興国は、経営の意思として、人材育成をしていく。たとえばインドのインフォシスは新卒を毎年2万~3万人近く採る。その新卒が半年間、1万4000室ある研修所で合宿する。インドでは毎年新入社員の18%が退職するそうだが、短期に基礎理論を徹底的に詰め込むことによって、あるタイプのITビジネスのモデルを成功させてきた。これが万能だとはいわないが、日本の場合には、もっぱら人が育つ風土作りをしてきた。風土作りでの盲点は、その風土が劣化していても自覚症状がなかなか出にくいことにある。
──仕事観にも注目しています。
もう一つのポイントは「明確な仕事観」だ。仕事観には功利性、内因性、規範性の三つがある。世の中が貧しい時代は功利的なものが主体になる。豊かになってくると、内因性、やりがいや成長といった心理的、精神的な報酬が重要になってくる。加えて、仕事は人のためにやるもの、人に価値を生み出さなければ給料をもらえないという規範的な刷り込みがないと、社会に自然発生的には仕事は生まれてこない。内因的、規範的にしっかりした仕事観を持たずに、想定外が来ると立ち位置が一気に揺らぐ。
──自信と誇りを持てとも。
自信と誇りを両立させることは重要で、若いうちに両方が確立していくと、その後いいキャリアが育つ。自信とは自己効力感。それは自分なりに頑張って成果を出し評価されることによって、自分は役立つ、やれるという思いを持つことで感じ取れる。誇りは、こんなことをしたくない、人間としてこういうふうに生きたいという思いでいい。それは仕事観につながる。
自信と誇りはらせん階段を上るように両方を徐々に健全につけていくことが重要だ。そうなれば自己効力感と明確な仕事観が若いうちに形成される。想定外横行の時代に、立ち直りポジティブになれるかどうかは、若いうちに自信と誇りのバランスを作れるかどうかに懸かっている。