なぜ大きく成功したのか、その秘訣は何かという質問は、おそらく松下幸之助にとって、もっとも受ける回数の多いものであったと思う。松下はその折々に思いつくままにいくつかの理由を挙げて話をしているが、その中でも相手に比較的覚えてもらえることの多い理由と、そうでないものがあったように思う。
たとえば、「理想を掲げる」というのは、得心(とくしん)のいきやすい理由ではなかっただろうか。松下はまだ町工場といった時代に、「250年計画」を発表した。このエピソードはマスコミ好みでもあり、人びとの記憶に残りやすい。経営の神様と呼ばれた人物であれば、おそらく壮大な大志を抱いた特別な人間であったはずだと人は思いたがる。
日々の積み重ねを重視していた
しかし一方、松下が何度も話しても、人びとの記憶に残りにくい成功の理由もあった。ことに、以下で述べる「日々の積み重ね」「平凡なこと、当たり前のこと、ささいなことの積み重ね」というのは、その代表格ではないだろうか。
松下は確かに、崇高な理想も掲げた。しかし自分が成功したのは、その日その日を大事にしてやってきたからだと話すことも多かった。だから講演などでは、たびたび次のようなことを話している。
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