まるで夢のようでありながら、大人の静けさをたたえたその空間にいると、自然と心が躍った。
この部屋の主は、小野笑さん(36歳)。リノベーション会社で広報を務める彼女にとって、家づくりは“仕事で見てきた理想を、自分の手で実現する挑戦”でもあった。築50年の中古マンションを1120万円で購入し、約1400万円をかけてリノベーション。
分譲住宅としては手頃だが、総額約2500万円超の買い物は、決して軽い決断ではない。
「もちろん思い切りは必要でしたけれど、ローンを組むなら35歳から余裕を持って返したいという判断もあって。返済に無理がないように、自社で提携しているファイナンシャルプランナーにも相談して、予算を決めました。
当時の収入は決して潤沢ではなかったので、条件は取捨選択しましたね。私の場合は在宅勤務が主で、都心へのアクセスは重視しません。だから実家の近くの横須賀で探すことにしました。そして築年数もこだわりませんでした。その分、自分らしい内装にお金をかけることにしたんです」
そうやって現実的な予算のなかで「これからずっと、ここで生きたい」と思える空間をつくった。
素材選びからディテールまでほとんど妥協せず、完成した部屋は同僚からも驚かれるほど個性的な空間だ。リノベーション会社の広報として、自宅の写真をSNSに投稿すると反響が広がり、雑誌やメディアからの取材依頼も増えた。
「自分の家が発信の場になったことで、180度、世界が変わりました」。そう語る小野さんは、実は家づくりに挑戦する前までは、“好き”を表に出すことに慎重な、受け身な性格だったという。
いじめの記憶と「自分を出せない」時間
「元々いじめられっ子で、人が怖いんです。何か好きなものについて話すと、気持ち悪いと思われる気がして……。だから自分の話をしないようにしていたかもしれません。
それに私が学生の頃は、今みたいに“推し活”とか、好きなものを発信する文化がなかった時代だったから、何かに夢中になるのがちょっと浮く感じがあって。目立つとすぐにいじられたり、からかわれたりする。だから“好き”を表に出すのも怖かったんです」


















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