夏目漱石は「金に転んだ」と非難されたことがある。東京帝国大学の講師を辞めて、朝日新聞社に入社してお抱え作家になったときだ。そういう決断をした理由はいろいろあったが、ひとつにはたしかに収入のためだった。
といっても漱石は、お金を儲ければ偉いと思うような人ではない。むしろ逆で、『吾輩は猫である』などの著作でも、そうした人物を徹底的にけなしている。漱石がお金を欲しがったのは、お金から自由になりたかったからだ。
高収入だったが、出ていくものも大きかった
漱石は高収入だったが、出ていくものも大きかった。今でいう奨学金のようなものも返していたし、実家の夏目家が没落したし、妻の実家も、もとは政府の高官で裕福な家だったのだが、これも没落していた。さらに、養父(幼いとき養子に出されて、9歳のとき夏目家に戻った)にもお金を渡したり、まあ、いろいろあったようだ。自分がお金で苦労しているからか、困っている人にはよくお金を貸してもいた。そうやってさまざまなお金の問題があると、それにからむ人間関係の問題も起きてくる。『道草』という小説にも、そのあたりのことが書いてある。



















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