やがて他者からの好奇の視線を感じる ようになり、人を避けるようになった。「自分は悪者なのか」と感じるほど、他人が怖くなり、心を閉ざしていった。病状が進み、できないことが増えるにつれて、そんな気持ちは絶望に変わった。
「死んでしまいたくて、でも身体が動かなくて死ねないだけ。そんなふうに思っていました」
そんな青木さんに転機をもたらしたのは、16歳のときに出会った一人の看護師だった。入院中、日常の介助を担当していた女性だ。
「その人は僕のことを“患者”じゃなくて、ひとりの人間として見てくれたんです。それがすごくうれしくて。手を握って、笑顔で見つめてくれたこと――そのときの優しいまなざしは、いまでもはっきり覚えています。僕は彼女を好きになったんです。
『ありのままの自分が持つ優しい心を、忘れないで』と教えてくれた人でした。もう14年も前のことですが、思い出すたびに背中を押されるような気がします」
それまで人を避け、人に心を開くことはなかった。けれどその人に出会ったことで「もっと人と向き合いたい」「うまく喋れるようになりたい」と思ったという。それから、青木さんは少しずつ他者に心を開いていった。 すると徐々に、手を差し伸べてくれる人、心を通わせられる人が現れた。
「もちろん、今も気が合わない人や意地悪な人はいます。でも初恋の彼女から、相手と向き合うことの大切さを学びました」
「生きたいように生きられている」いまが幸せ
いまの青木さんは、自由に、精力的に暮らしている。 午前は身支度や介助の時間にあて、午後からは仕事の打ち合わせや事務作業をこなす。 夜はオンラインで友人と話したり、時にはライブや飲み会に出かけることもある。
「行けると思ってなかった場所に行って、楽しめることが、すごくうれしいです」
ヘルパーとの関係も、支える・支えられるだけではない。日々のやり取りの中で、互いに気を遣い合いながら暮らしている。部屋も整えて、花やグリーンを飾ったりと、お互いに余裕を持てるようにしている。 ヘルパーとして出会い、やがて友人として関係が続くこともあるという。
「ひとり暮らしをしていると、朝が来るたびに『いま、自分の思うように生きている』と思えて、幸せを感じます。だから、こんな日々が続くように、そして僕と同じような人々がこの幸せを感じられるように、前に進んでいきたいです」
その言葉は飾り気がなく、実感がこもっていた。



















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