資生堂、再建中の中国事業でまさかの誤算 訪日中国人に笑い、現地中国人に泣く

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もう一つの問題は、最大のチャネルが百貨店であることだ。現在、中国の百貨店業界には不況の嵐が吹き荒れ、閉店が相次ぐ。2012年から2014年にかけて、外資系や合弁会社を中心に45店、2015年も、9月末までで40店が店を閉めた(中国百貨商業協会調べ)。

百貨店の売り上げを最も食っているのが、拡大するeコマース市場だ。従来は、「一流品を買うなら百貨店へ」と足を運んでいた消費者だが、場所や時間を問わずに気軽に利用できるeコマースで一流品を買うことへの抵抗感は薄れてきている。偽物をつかまされるリスクは依然としてあるが、それでも店舗への口コミ評価を見て信頼できる購入先を見極める賢い消費者が増えている。

撤退コスト重く、百貨店チャネルを切れない

10月30日の決算会見に登壇した魚谷雅彦社長。中国事業の再建は、暗礁に乗り上げている。

資生堂も、現在は10%程度のeコマース売り上げを、2020年までに売上の30%までに高めていくため、担当人員を増員して対応を急いでいる。越境eコマースへの参入にも意欲的だ。それでも、1000店以上に拡大した百貨店チャネルの撤退コストを考えると、その見直しには慎重にならざるを得ないようだ。

中国製と百貨店の不振――。当然、中国に進出している同業他社も同じ課題に苦しめられている。だが、すでに方向転換に向けて手を打っている会社もある。コーセーだ。採算の取れない百貨店からは撤退し、前期末には、低迷する現地製ブランドの生産の縮小を見込んで、工場の減損処理もした。数を搾った好採算店で、日本で“爆買い”されている「雪肌精」などの輸出品を中心に展開する。中国の売上高に占めるネット通販の割合は2割まで高めた。「中国では、欧米でも通用するようなレベルの日本製ブランドを展開するべきだ」。11月4日に行われた記者会見で、コーセーの小林一俊社長はそう断言する。

1981年に中国事業へ参入した資生堂。中国人の肌質を徹底的に追求した化粧品を開発し、10年かけて全土を回って地道に販路を拡大した同社は、「中国に進出した日本企業の、一番の成功例と言われていた」(福家氏)。中国製は日本製より粗利率が高く、2010年代初頭までの営業利益は二ケタ台。まさに、資生堂の成長ドライバーといえる存在だった。しかし、こうした圧倒的成功体験が、これまでは、日々刻々と変わる消費者ニーズへの柔軟な対応を遅らせてきたといえる。

日本製の人気は、日中関係の行方によっては変調を来すこともあるかもしれないが、中国の百貨店チャネルの見通しは厳しい。かつての方程式が通用しなくなった今、1000人弱の現地営業部員を抱えて中国事業のかじ取りをしていかなくてはならない魚谷社長は、難しい判断を迫られている。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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