資生堂、再建中の中国事業でまさかの誤算 訪日中国人に笑い、現地中国人に泣く
しかし、「魚谷改革」がアピールするスピード感が、今回ばかりは性急さとして裏目に出た。突然の組織・待遇の変更によって会社に不信感を抱いた営業部員の離反により、商品が売れたまま補充されない、果ては店頭から資生堂の什器が撤去されてしまう、といった状況に陥り、専門店の売り上げは3割落ちた。問題が発覚したのは9月はじめのこと。魚谷社長は即座に中国に飛び、その陣頭指揮のもとで緊急体制が敷かれた。卸機能を担う代理商とも会議を開き、信頼の回復に努めた。
経営体制も一新された。10月16日には、就任して1年も経たない中国トップのラルフ・アーベック氏と現地法人総経理の高野茂氏がともに座を退くことが発表され、当面の間は魚谷社長の「直轄領」とした。東京本社に置かれた中国プロジェクトチームが、直接指揮を執るかたちだ。
したがって、現地法人に権限を委譲し、現地に合ったマーケティングを進めるために来年1月から本格的に始動する「地域本社体制」では、中国地域本社のみ、トップが空席となる。「ひとまず出血状態は止めることができたと思っている」。魚谷社長は力強くそう語るが、欠けた営業部員の補完や代理商との関係修復には、今後も時間がかかる模様だ。
日本製が人気、中国製は売れず
今回明るみに出たこの内部動乱は、あくまで一時的なものに過ぎない。じきに営業体制は回復するだろう。それでもなお、アナリストたちからは改革路線を疑問視する質問が相次いだ。中国事業回復の行く手を阻む、2つの根本的な問題への解決策が示されていないからだ。
1つ目の問題は、売り上げ全体の約7割を占めるのが「オプレ」(百貨店専用)や「ウララ」(化粧品専門店専用)など中国製の化粧品であることだ。
今回の決算を見てみると、日本から輸出されている、高級ラインの「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー・ボーテ」が好調な一方で、3つの現地工場で生産される中国製ブランドは軒並み低迷している。営業部員の離反に関係のない「オプレ」が減収であることから、ブランド自体の人気が落ちている可能性が高い。それでも、資生堂は現地製のブランドへのテコ入れは続ける方針だ。
だが、「ここにマーケティング投資をいくらしても、現地製は現地製。かけたコストが売り上げにつながらない」「中国の消費者が欲しがっているのは、日本発のブランドではなくて日本製のブランド。この2つは違う」。化粧品業界のアナリストはそう指摘する。中国の百貨店事情をよく知る日中経済交流協会の福家貴専務理事は、「資生堂の中国製ブランドを買うなら、同じ値段でより高品質の韓国製が買える。資生堂の商品が欲しければ、円安の日本に行って高級ラインを安く手に入れればよい」と語る。
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