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ライフ #夫が「家で死ぬ」と決めた日

"葬儀で出すポップコーン1皿2200円""総費用780万円"――くらたまが伝えたい「大切な人が亡くなったあとに後悔したこと」

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その姿を見ていると切なくて切なくて、私は黙って夫の背中を見つめるだけでした。今も強い印象をもって、私の心に刻まれた情景です。

彼は日々変化していく自分の身体に、淡々と、時には戸惑いつつ、付き合っていました。夫が穴を開けたベルトは、手放すことのできない夫の思い出の一つです。

髪の毛をとっておけばよかった

二度と手に入らないもの、とっておかなかったことを悔やんでいるものがあります。夫の「髪の毛」です。

亡くなってからしばらくの間、夫はそのままうちのベッドにいました。身体中に氷を巻かれて冷たかったですが、直接触れ語りかけることができました。

まるで眠っているような顔の夫の頭を撫でながら、「この髪をとっておこうか」という考えが脳裏に浮かびました。年齢の割に白髪がほとんどなく、柔らかいのにコシのある綺麗な髪でした。生前も頭をマッサージしたり撫でたりして何度も何度も触れた髪です。匂いだって覚えています。

でも、最早痛みを感じないとわかっていても抜くのはかわいそうで、またせっかく整っているのに髪型が乱れてしまうのにも抵抗があり、そして何より私という人間は遺髪など必要とするタイプではないと自分で判断して断念しました。

『夫が「家で死ぬ」と決めた日: すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』(小学館)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

まさか、自分がそういうものを頼りにしたくなるとは思っていなかったのです。

でも、夫の気配が日々薄くなっていく家にいると、「やっぱり髪をもらっておけばよかった」と後悔の念が頭をよぎります。

何度も見て、触れているものだから。

写真や動画もそうですが、見ることで思い出がよりリアルに思い出されるんですよね。夫の一部、実際に私の記憶につながるもの、あの柔らかい毛をとっておけばよかった。

ごめんねって言って抜かせてもらえばよかった。そしたらきっと何度も見返し、触れて夫を感じられるのに。

「迷ったらやる」は私の行動理念なのに、遺髪をとっておくことを迷った挙句しなかったのは、きっとずっと残る後悔の一つです。

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