
そこに目を付けたのは地元で飲食店を営む女性。日本の他のエリア同様、奥多摩エリアにもインバウンドを中心にさまざまな人が来るようになりつつあるが、地域にある宿泊施設は簡易なものが中心。これまで奥多摩を訪れる人の多くはツーリング、キャンプなどが目当てで、宿にはあまり多くを求めていなかったからだろう。
そもそも、奥多摩エリアは日原鍾乳洞や御岳山、奥多摩湖、前述の大丹波川などの清流といった自然には恵まれているものの、それ以外に大きな観光名所があるわけではない。
日本の多くの地域同様、風光明媚ではあるものの、決め手に欠けるとでもいえば良いだろうか、多くの人に観光地として認識されるには微妙な地域である。
そこに多くの人を惹きつける強いコンテンツが欲しいと考えた女性は複数の空き家をリストアップ。それらのうちのどれかを使って宿を作って欲しいと9(ナイン)株式会社の久田一男さんに相談した。
久田さんはもともと大阪に本拠を構え、住宅などのリノベーションを手がけてきた。だが、十数年前からクライアントワークでは古民家再生は難しいと考え、自社事業として宿泊に進出。自身の実家である築100年超の古民家の再生を経て大阪市中心部でいくつもの再生を行ってきた。
「移築されてから100年は経っているという滋賀県東近江市の民家で、趣味人だった祖父に育てられました。その経験から日本の古い建物を愛し、そこに現代的な感覚を盛り込めば、世界に通じる空間が作られるはずと思ってきました。
でも10年、20年前には古い日本家屋の、陰影に満ちた空間を美しいという感覚が日本のクライアントには理解してもらえなかった。それなら、自分でやろうと宿泊業を始めました」(久田さん)

その積み重ねの中で出会ったのがサウナだ。久田さんはサウナは地方に展開、海外からも人を呼ぶ強いコンテンツになり得ると考えている。世の中には一時のサウナ熱はすでに下火という見方もあるが、それは違うとも。
「美味の追求と同じで、ある程度で良しという人ともっと良いものをという人に大別されつつある状況と考えています。実際の施設でも都心の個室サウナは選ばれにくくなっている一方、地方を中心に開放感が味わえる、天然水を使ったサウナには人が集まるようになっており、これからは都心でできないことができる地方のサウナのほうが有利です」(久田さん)

都心でできない「地方のサウナ」の強み
サウナには、都心ではできない・しにくいことが3つある。1つ目は薪火を使うこと。消防法上の問題から難しいからだ。2つ目は天然水を使うこと。水道を利用している地域で井戸水、湧水、地下水を使うことは現実的ではない。
そして3つ目が景色。サウナ後の寛ぎの時間をどのような景色の中で過ごすかは満足度を大きく左右するが、都心で楽しめる眺望は限られている。
一方、日本の地方はどこも景色と水には恵まれている。薪火も使える可能性が高く、それを考えると都心ではできない体験ができる場を作ることは十分に可能だ。
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