朝ドラ「あんぱん」やなせたかし、漫画がヒットせずによかったワケ 思いもよらぬ形で転がる人生にさした光
そして今、やなせの数多くある肩書が、またひとつ増えようとしていた。それは「詩人」である。
謎の会社「山梨シルクセンター」で詩集を出す
詩人になったきっかけもまた、ラジオドラマだった。
やなせはラジオドラマの仕事をするときには、必ず自作の歌を入れた。自分の書いた詩が劇中で歌われるのが面白くてたまらなかったからだ。この作詞家としての活動が「詩人やなせたかし」を誕生させる。
やなせは歌詞がたまってくると、それを自費出版しようと考えて、準備を進めていた。そこに「山梨シルクセンター」という会社の社長が、たまたま現れた。山梨シルクセンターはハンカチ、サンダル、スリッパ、コップ、人形……など様々な物を販売しており、やなせはお菓子のケースのデザインを依頼されていた。
ところが、やなせが自費出版にと考えていた詩集に興味を持った社長は、こんなことを言い出したのだ。
「出版して書店で売りましょう。任せてください」
やなせが冗談だと思ったのも無理はない。ただでさえ詩は売れないのに、やなせにとっては初めての詩集だ。そして、山梨シルクセンターは出版物を手がけたことがなかった。
あまりにも無謀な試みに見えたが、社長はわざわざ出版部門を立ち上げて、1966年にやなせの詩集『愛する歌』を発刊。これが意外なほどに売れて、増刷を重ねて5万部のヒットとなったのだから、わからないものだ。
この「山梨シルクセンター」が改名して「サンリオ」となるのは、まだ先の話だ。
やがて、やなせは山梨シルクセンターで『詩とメルヘン』という雑誌を創刊。「編集者」という新たな肩書で、雑誌作りにも携わることになるのだった。
(つづく)
【参考文献】
やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)
やなせたかし『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)
やなせたかし『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)
やなせたかし『アンパンマンの遺書』 (岩波現代文庫)
梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』 (文春文庫)
真山知幸『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたのか?』(サンマーク出版)
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