日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる 文明評論家リフキンが描く衝撃の未来

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現在、GDP3位の日本と4位のドイツ。両政府の産業政策には埋めがたい差がある。写真は2014年4月にベルリンを訪問した際の安倍晋三首相(左)とドイツのアンゲラ・メルケル首相(写真:picture alliance/アフロ)
10月29日、『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)が刊行される。原著者であるジェレミー・リフキン氏は、日本での刊行に合わせて、特別章を執筆した。ドイツと比較し日本が「限界費用ゼロ社会」に向けた取り組みが遅れていることを指摘すると同時に、今後の取り組み次第では世界のリーダーになれるともいう内容だ。今回、東洋経済オンラインではこの特別章の全編を掲載する。

 

日本は、限界費用ゼロ社会へのグローバルな移行における不確定要素だ。この国は今、中途半端な状態にある。

その苦境を理解するには、日本の現状をドイツの現状と比べてみさえすればよい。両国はグローバル市場における、世界一流のプレイヤーだ。日本経済は世界第3位、ドイツ経済は世界第4位に位置する。ところが、ドイツがスマートでグリーンなIoT(モノのインターネット)インフラへと急速に移行することで共有型経済と限界費用がゼロの社会を迎え入れようとしているのに対して、日本は過去との訣別を恐れ、確固たる未来像を抱けず、岐路に立たされている。

アンゲラ・メルケルの決断

『限界費用ゼロ社会―〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

2005年、アンゲラ・メルケルはドイツの首相になると、就任後数カ月のうちに私をベルリンに招いた。在任中に彼女の政権が、どのようにドイツ経済を成長させ、新しい企業や職を創出するかという問題に取り組むのを手伝ってほしいというのだ。

私はベルリンに着くと新首相に「この大工業化時代の最終段階にあるドイツ経済を、さらに言えば、欧州連合の経済やグローバルな経済を、あなたはどう成長させるおつもりですか?」と真っ先に尋ねた。そして、中央集中型の電気通信、化石燃料と原子力、内燃機関を用いた路上・鉄道・航空・水上輸送を特徴とする第二次産業革命がすでに成熟し、生産能力を出し尽くし、ドイツもヨーロッパも世界も、時代遅れで瀕死の経済パラダイムの中でもがき苦しむ羽目に陥ってしまっていることを指摘した。

ドイツ滞在中、私は新たに始まりつつある第三次産業革命の要点を次のように概説した。既存のコミュニケーション・インターネットが、創成期にあるデジタル化された再生可能エネルギー・インターネットや、自動化されたGPS誘導(で、まもなく自動運転となる)輸送/ロジスティクス・インターネットと一体化してスーパーインターネットができ上がり、ドイツ経済のバリューチェーンに沿って、経済生活を「管理」し、それに「動力を供給」して「動かす」ようになる。

間もなく、IoTと呼ばれる新しいプラットフォームに支えられながら、このスーパーインターネットが「核」となり、あらゆる機器が他のあらゆる機器や、あらゆる人間とつながり、経済と社会で起こっていることに関する情報を、誰もがシェアできるようになる。当時、IoTは依然として概念段階にあり、センサーはようやくほんの一握りの機器に組み込まれ始めたところだった。

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