日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる 文明評論家リフキンが描く衝撃の未来
原子力産業と電力の公益企業が非妥協的態度を崩さないにもかかわらず、日本のさまざまな業界は、台頭する限界費用ゼロ社会のために、密やかに基礎を固めている。
最優先の課題は、コミュニケーション・インターネットを、揺籃期の再生可能エネルギー・インターネットおよび、新生の、自動化されたGPS誘導自動運転輸送/ロジスティクス・インターネットと統合して、単一の稼働システムにし、IoTプラットフォームに接続した何十億という機器が生み出すビッグデータの流れを処理し、経済活動をより効率的に管理し、そこに動力を供給して動かせるようにすることだ。
日本は、ユニバーサル・サービスの超高速ブロードバンド接続でコミュニケーション・インターネットの性能を高める点では、すでに飛び抜けており、IoTプラットフォームにおけるビッグデータの流れと処理の総効率を上げることが可能になっている。そして日本は今、毎秒10ギガビットのインターネット速度を家庭と企業に導入する計画を立て、ブロードバンド接続を次なる段階に導こうとしている。このコミュニケーション・チャンネルが実現すれば、現在アメリカに存在するものの数百倍の速さを持つことになる。シスコ社に言わせれば、「この高速接続は重要だ。なぜなら、IoE(万物のインターネット)の普及が速まり、日本は他の国々よりも迅速にその恩恵にあずかることが可能になるからだ」。
日本は独特の地理的利点にも恵まれており、そのおかげで、より迅速に再生可能エネルギー・インターネットへと移行することができる。日本の一般大衆にとってさえ意外かもしれないが、日本は先進工業国のうちで再生可能エネルギー源(太陽光、風、地熱)を最も豊富に有している。ロッキーマウンテン研究所の共同創立者でチーフ・サイエンティストのエイモリー・B・ロビンスが指摘しているように、日本はドイツの9倍の再生可能エネルギー資源を持っていながら、そうしたエネルギー源による発電量はドイツの9分の1しかない。たとえば、「日本はドイツと比べて、国土は5パーセント、人口は68パーセント、GDPは74パーセント多く、太陽光や風もはるかに豊富だが、2014年2月までに増やした太陽光発電量はドイツのおよそ5分の1にすぎず、風力の利用の増加はないに等しい」。
日本を引き留めているのは、やはり、一握りの垂直統合型の巨大な電力公益企業で、これらの企業は日本では途方もない影響力を振るっており、原子力発電を断念することを頑として望まない。福島の惨事のときに日本の首相の座にあった菅直人は、2015年8月、震災以来初めて川内原子力発電所が運転を再開したことを、「大きな誤り」と評した。菅はさらに、「原子力発電は20世紀のテクノロジーであり……長期的観点に立てば、エネルギー源としては劣っている」と述べた。
日本はゆっくりと慎重に前進
とはいえ日本は、デジタル化された分散型の再生可能エネルギー・インターネットの確立に向けて、ゆっくりと慎重に前進している。日本の経済産業省が2015年6月に発表した、新しいエネルギー長期計画は、2030年までに全エネルギーのうちに再生可能エネルギーの占める割合を22~24パーセントにするという、控えめと呼ぶのがせいぜいの増加を求めるにとどまったが、三菱電機、東芝、パナソニックなどの日本企業は自ら、しだいに積極的なマーケティングを行って、家庭用ソーラーパネルの設置を促進し、スマートな家庭エネルギー・システム実現に向けた戦略を展開している。
断続的なエネルギーに依存する分散型の再生可能エネルギー・インターネットで電力のピーク負荷とベース負荷を効果的に管理するには、当然ながら、最先端の電力貯蔵技術が必要とされる。この分野では日本は世界をリードしている。2015年までに日本全国で、地産エネルギーを貯蔵するために設置された家庭用水素燃料電池の数は10万に達した。福島の原発事故のあと、エネルギー貯蔵は日本政府にとって喫緊の課題となっている。政府はエネルギー貯蔵設備の拡充のために、水素テクノロジーに的を絞り、7億ドルを刺激策に充てることにした。
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