日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる 文明評論家リフキンが描く衝撃の未来

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この新たな現実が最も如実に表れているのが、新しい再生可能エネルギーへの移行だ。すでに述べたように、ドイツでは再生可能エネルギーの大半が、一緒になって電力協同組合を結成した何百万もの家庭と何千、何万もの企業によって、おのおのの場所で生み出されている。そのグリーン電力はデジタル化されたエネルギー・インターネット全体でシェアされる。これはピアトゥピアのエネルギー生産・流通という新時代の始まりを告げている。

ドイツを動かしている電力は、2025年には、その45パーセントが太陽光と風力のエネルギーから生み出され、2035年には6割が再生可能エネルギーによって生産され、2050年にはその数字は8割に達する見通しだ。言い換えれば、ドイツは、財とサービスの生産・流通における電力生産の限界費用がしだいにほぼゼロに近づく、スマートでグリーンなデジタル経済への道を順調に進んでおり、生産性は劇的に上がり、限界費用は減少し、グローバル経済での競争で優位に立てるだろう。一方日本は、中央集中型でますますコストのかかる原子力と化石燃料のエネルギー体制におおむね執着しているので、日本企業は国際舞台での競争力を失う一方だ。

IoTインフラの導入を切望する日本の主要産業

皮肉にも、日本の主要産業の多くは、IoTインフラの導入を切望している。IoTインフラは新たなビジネスモデルやビジネス手法を助長し、利益を生み、膨大な新規雇用機会を創出しうるからだ。ところが、これらの産業は電力業界に手足を縛られている。電力業界は、古い原子力発電所をなんとしても再稼働させ、日本を輸入化石燃料に依存させ続ける気でいる。だが、日本の電気通信企業や情報通信テクノロジー企業、家庭用電化製品メイカー、輸送・物流企業、製造業者、生命科学企業、建設・不動産業界、小売部門、金融業界などは、これまで語られなかった、新しいデジタル経済パラダイムへの移行に伴うチャンスを理解し始めている。

現在日本はドイツの後塵を拝しているとはいえ、20世紀後半の第二次産業革命で挙げた目覚ましい業績からは、限界費用ゼロ社会へのデジタル・パラダイムシフトにおいても、先進工業国の間で圧倒的優位に立つ潜在能力があることがうかがえる。

日本企業は過去半世紀にわたって、生産性を上げて限界費用を減らすうえで総効率が果たす役割を直感的に理解してきた。一般には知られていないが、20世紀最後の数十年間には、総効率の向上の点で、日本はアメリカをしのいでいた。総効率は、第二次産業革命のインフラが成熟するのに伴い、20世紀の最後の25年間に、アメリカでも日本でも頂点に達した。アメリカの総効率は約13パーセントで横ばいになり、日本では20パーセントほどで頭打ちになった。それ以後、生産性は両国でも世界各国でも伸びが鈍った。第二次産業革命のコミュニケーション/エネルギー/輸送プラットフォームが、四半世紀以上前に生産性の限界に達したからだ。

だが今、第三次産業革命のデジタル化されたコミュニケーション・インターネット、再生可能エネルギー・インターネット、輸送/ロジスティクス・インターネットの構築により、今後30年間に総効率を40パーセント以上へと伸ばし、極限生産性を実現して、限界費用がほぼゼロの社会へと、かつてないほど近づく見込みが出てきた。日本には過去に総効率を上げた高度な専門的知識が備わっているのだから、スマートでグリーンなIoTを急速に拡大する上で、潜在的な強みがある。日本は世界を次の素晴らしい経済の時代へと導くのを助けられるのだ。

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