日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる

文明評論家リフキンが描く衝撃の未来

だが、近い将来、IoTのおかげでドイツの家庭や企業は、国内各地で起こっているあらゆる経済活動に関するリアルタイムのデータに、一日中いつでも好きなときにほぼゼロの限界費用でアクセスできるようになるだろうと、私は述べた。

収集されたビッグデータを分析技術を用いて調べれば、アルゴリズムやアプリケーションを生み出すことができ、個人も企業も、それぞれのバリューチェーンにおけるすべての段階で総効率を劇的に増し、それによって大幅に生産性を上げ、限界費用を減らし、新興のスマートな第三次産業革命の経済パラダイムの中で、ドイツは世界一生産的な経済システムになることができる。

2005年時点で「限界費用ゼロ」は始まっていた

ジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)/文明評論家。経済動向財団代表。広い視野と鋭い洞察力で経済・社会を分析し、未来構想を提示する手腕が世界中から高い評価を得ている。独メルケル首相のブレーンとして“インダストリー4.0”を理論的に牽引し、欧州委員会をはじめ世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務めるほか、TIRコンサルティング・グループ代表として協働型コモンズのためのIoTインフラ造りに寄与する。ペンシルヴェニア大学ウォートン・スクールの経営幹部教育プログラムの上級講師

メルケルが首相に就任した2005年の時点でさえ、早くも一部の財とサービスの限界費用はゼロに近づいており、インターネット・ユーザーは揺籃期の共有型経済において、ほぼ無料でモノを生産し、交換することが可能になっていた。

デジタル世代はすでに音楽や動画、ブログニュース、ソーシャルメディア、無料の電子書籍、自動車サービス、家やアパート、3Dプリントした製品、その他の財やサービスを、低い限界費用あるいはゼロに近い限界費用で生み出し、シェアしていた。

私は次のように首相に説明した。IoTはピアトゥピアという特性を持っているので、ドイツの中小企業や社会的企業、それに個人が集まって財やサービスを生み出し、直接交換することになり、第二次産業革命を通してドイツで限界費用を高く保ち続けてきた中間業者の生き残りを一掃できるだろう。経済活動の仕組みと拡がり方にかかわるこのテクノロジー上の根本的な転換は、少数の人から多数の人へと経済力が移り、経済生活が大衆化する大規模な変化の前兆なのだ。

ただし、第二次産業革命から第三次産業革命への移行は一夜にして起こるわけではなく、30~40年をかけて実現することを忘れないようにと、私は警告した。今日のグローバル企業の多くは、旧来の第二次産業革命のビジネス手法を守りながらも、第三次産業革命の新しい分散型・協働型のビジネスモデルをも採用することで、首尾良くこの移行を果たすだろう。今後、資本主義企業は、垂直統合型の市場で個々の製品やサービスを販売するよりも、水平展開型のネットワークをまとめ、管理することに、より大きな価値を見出す可能性が高い。

会見を終えるにあたって、首相はこう言った。「ミスター・リフキン、私はドイツのために、この第三次産業革命を実現させたいです」。私が理由を聞くと、第三次産業革命のインフラは分散型・水平展開型なので、自国の政治地理に打ってつけだからだという。なにしろドイツは連邦であり、各地方がそれぞれある程度の自治権を持ちながらも協働して、ドイツ全体のコミュニティの福祉を増進してきた歴史を持っている。デジタル方式でつながり、ネットワーク化したドイツという発想は、ドイツ国民には大いに納得がゆくものだとの見解を、首相は示した。

第三次産業革命とは実質的には、デジタルによる計算と記録の方法の普及に伴って1960年代に始まったデジタル革命が長期にわたって展開してゆくことにほかならず、あらゆる機器をあらゆる人間とつなぎ、グローバルな形で相互接続したスマートな世界を生み出すべく設計されたデジタル方式のIoTが構築されることで、今やこの革命は完成しつつある。

2012年、ボッシュ社とドイツ工学アカデミーのエンジニアたちが、「インダストリー4.0」と呼ぶ計画をドイツの連邦政府に提示し、スマートな工場へのIoTの導入は、第四次産業革命の表れだと主張した。第四次とうたって注目を集めようとしたのだろう。その動機はともかく、IoTはけっして第四次産業革命の表れなどではなく、第三次産業革命のスマートインフラの構築によって、社会全般にデジタルテクノロジーを普遍的に応用することでしかない。この点に関しては、エコノミストもエンジニアも政策主導者も広く意見が一致している。

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