がん患者の無再発生存率を上げる「運動」のやり方が明らかに――世界的に有名ながん学会と科学雑誌で同時に発表《医師が解説》

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患者さん側からしても、定期的に長期にわたって運動をするというのは、もともと運動習慣がない方からすれば、医療機関で抗がん剤治療を受けるよりハードルが高いことでしょう。

これらが、これまで運動療法が軽視されてきた理由です。

運動療法の医療現場への影響

この研究結果は、世界中の医療現場にも大きな変化をもたらす可能性があります。

医師もがん患者さんに対して、単に漠然と「運動しましょう」と言うのではなく、「週3〜4回、45分の早歩きで再発や死亡リスクが3~4割下がります」といった具体的な根拠を示して説明することができます。

もちろん、エビデンスを伝えるだけでは、患者さんの行動が簡単に変わるわけではありません。

いま、私たちがすべきなのは、命を救う手段として高額な薬剤や最新の医療機器ばかりに注目するのでなく、費用対効果の高い運動療法をもっと積極的に取り入れる方法を考えることです。

患者さん自身ができる、シンプルで安価な方法にも、大きな治療効果があることが科学的に証明された事実は、ぜひ皆さんに知っていただきたいと思います。

効果的な運動療法を実現するためには、パーソナルトレーナーや健康コーチによる継続的な支援が必要であり、医療制度側がそうしたプログラムへの投資を行うことが求められます。

この春、高額療養費制度の議論が紛糾しましたが、運動療法のような費用があまりかからない対策が導入しやすくなるような予算配分や、生活習慣病だけでなく、がん対策の一環としても運動療法を健康保険でカバーできるようにすることなども、公衆衛生政策としての今後の課題です。

もちろん、運動は万人にベストな選択ではないことに、注意は必要です。急に無理な運動をして、体を痛めてしまっては本末転倒です。がん患者の方は、新しい運動を始める前に、主治医にあらかじめ相談することをお勧めします。

いずれにせよ、複雑で高額な治療法ばかりが注目を集めがちな現代において、シンプルで誰にでもできる運動療法の効果が科学的に証明されたことの意義は計り知れません。

現在、がん治療は手術、抗がん剤治療、放射線治療という3つの柱が中心となっていますが、今後は運動療法も重要な柱の1つとして位置付けられる可能性があります。そして、その第一歩は、文字通り「歩く」ことから始まるのです。

谷本 哲也 内科医

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たにもと てつや / Tetsuya Tanimoto

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長・社会福祉法人尚徳福祉会理事・NPO法人医療ガバナンス研究所研究員。診療業務のほか、『ニューイングランド・ジャーナル(NEJM)』や『ランセット』、『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』などでの発表にも取り組む。

 

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