がん患者の無再発生存率を上げる「運動」のやり方が明らかに――世界的に有名ながん学会と科学雑誌で同時に発表《医師が解説》
その点、今回は科学的にも精度の高い手法で初めて効果を証明した、画期的な研究といえます。
今回の研究では、両群に体重や腹囲の変化はほとんど差がなく、「やせたからがんの再発・死亡リスクが減った」わけではなさそうです。では、なぜ運動が再発や死亡を減らしたのでしょうか。
研究を詳しく見ていくと、運動群では、特に肝臓への転移と新たながん(乳がん、前立腺がん、大腸がん)の発生が顕著に少ないことがわかりました。
このことから、運動は、血流改善による免疫の強化や、がんの要因となり得る炎症の抑制やインスリン感受性の改善によって、がん細胞の成長が促進されにくい環境に変わり、がんの転移や新たながんの発生予防につながったのではないかと考えられています。
運動療法が有効な病気とは?
本研究は大腸がんの患者さんを対象としたものですが、ほかのがんでも同じ効果があると推定されています。実際、運動群では乳がんと前立腺がんの発症率も低下しており、ほかのがん種での研究も計画されているそうです。
また、がんだけでなく認知症や心不全でも運動療法の効果はいわれており、さまざまな病気に対して運動は広い予防効果を持つと期待されているのです。
ここまで聞くと、疑問が湧いてくるはずです。「なぜ、もっと早く、こうした研究が行われなかったのか?」ということです。
大きな理由としては、運動療法の臨床試験には時間と手間がかかるため、それに充てられる十分な予算が配分されにくかったことがあると思います。実際、今回の研究は企業ではなく、公的機関が資金を出したもので、被験者を集めるのに時間がかかり、研究期間は15年にも及びました。
抗がん剤の臨床試験なら、薬を開発した製薬企業が予算を出してくれます。承認されて薬が使われれば、会社の利益になるからです。
しかし、患者さんがせっせと運動療法を行っても、それが企業側の利益に結びつきにくい。そのため、運動研究のような分野では「患者の役に立ちそう」というものでも、簡単には臨床試験が行われにくいのです。
また、運動のような生活習慣介入の研究は結果のばらつきも大きいため、科学的な価値は高いけれど、業績が早く欲しいと考える研究者にとっても、割に合わないテーマでした。
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