『生しょうゆ』『生ドーナツ』…日本人はやっぱり“生”が好き? 《人気の背景と技術の進化》 いかにも「日本らしい食べ物」と言える理由

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朝採れといえば、最近は夜明け前に収穫したトウモロコシやアスパラのおいしさを知る人も多い。週末に直売所や道の駅へ出かけ、採れて間もない野菜を買う人たちもいる。都会人も気軽に鮮度のいい野菜を楽しめるようになったことが、より一層新鮮さを求める傾向を育て、「生〇〇」の人気を高めたのではないか。

スイーツでも「生」は大人気

スイーツについては、技術の裏付けがある「生〇〇=鮮度の高さ」という連想に加え、ここ10年余りで高まるモチモチやフワフワを好む傾向が影響していると思われる。

例えばパン。水分量が多い生食パンはフワフワとモチモチの両方の食感を楽しめるが、従来の食パンは表面をカリカリにトーストして食べることが多い。食パン以外のパンも、モチモチとフワフワを好む傾向が高まっていて、水分量を増やした製品の人気が高い。

生スイーツに多い、クリーミィな食感を好きな人も多い。1993年に名古屋から東京進出を果たした「パステル」の「なめらかプリン」以降、クリーミィなプリンが一般化し、2019年頃から流行する「硬めプリン」とは人気を二分する。

クリーミィな舌触りを押し出してブームを巻き起こしたと言えば、2007年発売の花畑牧場の生キャラメル。生ドーナツは、福岡の「アイムドーナツ?」が東京に進出した2021年にブームが始まった。

生ドーナツ
東京でも人気の生ドーナツ(写真:編集部撮影)

「カレーは飲み物」などと言うように、飲み物のような柔らかさを食べ物にも求める日本人の好みが、生スイーツの流行を促しているのかもしれない。日本人の汁物好きは、『「食」の図書館 スープの歴史』(ジャネット・クラークソン著、富永佐知子訳)も指摘している。

湿度が高いからか夏の暑さが激しいからか、唾液量が多いのか、日本人は水分量が多い食品を求める傾向が強い。国産の野菜や果物も水分量が多い傾向がある。また、餅や団子などのモチモチした和菓子の文化があり、小麦粉を使ったうどん類もモチモチした食感は売りになる。

ただパンはモチモチ食感にするべく水分量を増やすと、製造が難しくなる。生キャラメルも高い製造技術を求められるうえ、冷蔵保存が必要だ。やはりここでも、技術の進化が関わっていると言えそうだ。

鮮度が大事な魚食民であったこと、水分量の多さを求める傾向があること。そして、高温多湿な気候でモノが腐りやすい環境に暮らしていること。日本人にとって、「生〇〇」は安心・安全の保障であり、鮮度の高さをも意味する。

それは産業発展で得た食品保存技術に加え、それぞれ独自に開発した製造技術の進化が背景にあったからだ。「生〇〇」は、こまやかな工夫を凝らして技術を進化させてきた、いかにも日本らしい食品ともいえる。

私たちは無意識のうちに、そのありがたさや誇りとともに、「生〇〇」を消費しているのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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