エンロン粉飾、内部告発者の過酷すぎる半生 危険人物のレッテルを貼られ再就職できず

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──典型的な懲罰人事ですね。

転職先を探すようにし向けたということです。実際、私も転職先を探し始めましたし。あとからわかったことですが、この時期、会社側は顧問弁護士に、内部告発をした社員を解雇した場合、どういったリスクが発生するかという相談を持ちかけていたのです。結論としては、解雇すると係争になり、その過程で会社にとって不都合なことが外に出る、だから解雇は妥当ではない、といった内容でした。

内部告発の2カ月後の10月16日、エンロンは決算修正と10億ドル以上の償却実施を公表。11月8日には再度決算修正を行い、12月2日、連邦破産法11条(チャプターイレブン)の申立を行い破たんした。
翌年1月には破たんに至る原因を示す証拠書類を大量に破棄するなど、証拠隠滅を図ったことが発覚。FBIが強制捜査に乗り出す。
ワトキンス氏の処遇に関する弁護士と会社とのやりとりを示した資料は、FBIがエンロン本社を強制捜査した際に押収、2002年2月に開かれた上院での聴聞会の場でワトキンス氏の知るところとなった。

 

──チャプターイレブンの申請後、大規模なリストラが実施される中で、貴方は会社側の弁護士から「訴訟の際に証人として必要になるだろうから、少なくともあと1カ月は残れる」と言われたわけですね。そしてそのことをお友達に話したところ、自分で弁護士を雇え、というアドバイスを受けるわけですね。

そうです。私自身は何も悪いことはしていない。それなのに会社が破たんして経済的にも不安な時に、高額の報酬を支払って自分で弁護士を雇うなんて、とも思ったのですが、友人は「会社は自らを正当化するため、内部告発をした社員を悪者に仕立て上げようとあらゆる手段を使うもの。あり金をはたいてでも、出来るだけ大物で腕の立つ弁護士を雇え」と。そして特にエンロンの社内弁護士には注意しろと。「自分で雇ってもいない弁護士を信じるな」という忠告も受けました。

──恐ろしい話ですが、サラリーマンにとっては人ごとではないですね。

これまで後悔したことは一度もない

名刺の裏に刷り込まれた旧約聖書・ソロモンの格言「主を畏れれば命を得る。満ち足りて眠りにつき、災難に襲われることはない」

──2002年1月、議会で貴方が内部告発者であることが明るみに出て、2月の上院聴聞会で、スキリング氏やファストウ氏の犯罪を裏付ける証言をし、一躍ヒロインになりました。

ただ、どこの国でも内部告発者は、結局はトラブルメーカーという烙印を押され、なかなか再就職は難しいようです。あなたもそうでしたか。

そのとおりです。私自身、二度と米国企業では働けないということは自覚しています。エンロンを辞めたあともオファーはいろいろあったのです。大学で教えないかとか、取締役会向けのコンサルティングをやらないか、とか。でも最終段階でいつもダメになる。

──後悔はしていませんか。

全く。一度も後悔したことはありません。正しいことをした結果、精神的な面でさまざまな奇跡を経験しました。与えられた才能を使ってリスクをとれば、必ずいいことがある。神様の手にふれられたという実感を得られたことは、おカネを得ることよりもずっと価値がありますよ。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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