「私の仲間5人も自ら命を絶った」 元起業家が語る「成功の罠」 日本の起業家が直面する「死のリスク」と「セーフティネットの欠如」

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本書では、起業家を危機から救い出すいくつかの提言が紹介されている。そのうちのいくつかは、私も大いに賛同するところがあった。

金融関係者・大学教授・評論家への憤り

もう一つ言っておきたいのは、本書に登場してくる起業家たちの肖像は、日本のそれとはかなり趣を異にしているということである。

本書では、「価値志向型」と「快楽志向型」、つまりは禁欲主義と快楽主義に分類しているが、本邦で成功し、大金を手にしたのは、もっぱら「快楽志向型」の起業家ばかりに感じられてしまうからである。

「価値思考型」の起業家たちはどうやって自らをコントロールしていったのだろう。

「価値志向型」の起業家が、人知れず苦悩し、自死を選ぶという例に私は何度か遭遇した。

本書の冒頭に幾人もの起業家の自殺が描かれているが、同じことは日本でも起きていたのだ。

事実、私はベンチャーに関わった2000年を前後する10年間で、私の知っている起業家5人が自死を選んでいる。

私の周りに、起業家以外で自死をしている人間はいないので、これはかなり特異な事態だろう。

過去も、現在も、金融セクターや、大学教授や、評論家が、起業家を持ち上げ、企業を促し、企業こそ日本の経済的停滞を打破するカギであるかのように語っているのを見るが、そのたびに私は憤りを覚える。

日本では、起業家を守るセーフティネットがほとんど存在していない。起業は、場合によっては死に追いやられるほどのリスクを伴うことなのだ。

もし、起業家を死の淵から救いだす処方があるとするなら、その一つは、当の起業家自身が、自分たち擦り寄り、起業を促す人々が、結局は何の責任も負ってはくれないということをあらかじめ知っておく必要があるということだ。

一夜にして大金を手にすることのできるような世界は、一夜にして全てを失うこともある世界なのだ。

平川 克美 作家、元起業家

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ひらかわ かつみ / Katsumi Hirakawa

1950年、東京・蒲田の町工場に生まれる。75年に早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、内田樹氏らと翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを設立。1999年、シリコンバレーのBusiness Cafe Inc.の設立に参加。2014年、東京・荏原中延に喫茶店「隣町珈琲」をオープン。著書に『株式会社の世界史』(東洋経済新報社)、『小商いのすすめ』(ミシマ社)、『移行期的混乱』(ちくま文庫)、『マル』(集英社インターナショナル)などがある。

 

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