「私の仲間5人も自ら命を絶った」 元起業家が語る「成功の罠」 日本の起業家が直面する「死のリスク」と「セーフティネットの欠如」

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したがって、書店といえば、専門書を扱う小規模なセレクトショップがほとんどで、多彩な書籍を探すには、バーンズ&ノーブルのような極めて少数の大型書店に足を運ぶしか方法がなかった。そのような超大型書店でさえ、品揃えできる本は全体の一部でしかないのだ。

しかしベゾスが考えたWeb上の書店には、あらゆる本のタイトルが並んでおり、検索すれば欲しい本を容易に見つけ出し、発注することができる。設立して数年後、全米の書店、版元に眠っている膨大な在庫(ロングテール=長い尾)の総売り上げが、ベストセラーの売り上げに並び、それを追い抜くのを目の当たりにして、誰もがこのビジネスの本質がどういうものであるのかを理解し、程なくアマゾンは幾何級数的な成長へと向かった。

シリコンバレーで目撃した「革命」

私は、当時、起業家の一人とみなされていたようである。

実際は、私には起業家としてのマインド・セットがあったわけではなかった。

ベンチャーという言葉の本来の意味である冒険家という意味でなら、少しは当てはまるかもしれないが、私はたとえば本書で引用されているスティーブ・ジョブズの言葉「宇宙にへこみを作る」という妄想や断固とした信仰とはほど遠い人間であり、どちらかといえば全てのことに懐疑的であり、金銭欲に乏しく、どちらかといえば暗い部屋の片隅に逼塞して、本を読んだり詩を書いたりする人物像に憧れていたのだと思う。

それでも事の成り行きで、私は70年代後半に事業を起こし、それがある程度成功すると、起業家の先駆者のひとりとみなされるようになり、いつの間にかカリフォルニア法人(わずか数人の会社だが)のCEOになってしまっていた。

筆者がカリフォルニアで、日本発創業ベンチャーの育成支援のためのインキュベーション事業を始めるために渡米し、現地の駐在員や日本からやってきた投資家たちとサンタクララのホテルで初顔合わせをしたとき、日本の大手銀行に駐在しながら我々に賛同してこのプロジェクトに参加した一人が、興奮気味に、今日集合オフィスのあちこちのドアの前に、「アマゾンの段ボール箱が積み上げられている。すごいことになりそうだ」と語っていたのが印象的だった。

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