「私の仲間5人も自ら命を絶った」 元起業家が語る「成功の罠」 日本の起業家が直面する「死のリスク」と「セーフティネットの欠如」

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だから、経営に口を出してくるベンチャーキャピタルは、資金的な救世主であると同時に、最も忌避したい存在でもある。

こうした矛盾を引き受けながら起業家は、事業を導いてゆかなくてはならない。じっくりと土台を作り、着実に成長軌道に乗せたいと思っても、大金を投じた投資家サイドは素早い資金回収と利潤の固定を望む。それが彼らの仕事だからである。

こうした矛盾は、事業を展開していく上で、あちらこちらに存在し、その都度、起業家は選択と決断に迫られる。そうした緊張の日々を生き抜くには、安定的で平静な気持ちを持ち続けることは難しいだろう。

むしろ、平静や安定よりも、強い刺激こそが起業家を駆り立てるのであり、それがまた起業家のメンタルヘルスを危機的な状況へと追い込む原因にもなる。

ニール・シーマンは、そうした起業家を駆り立て、同時に精神的な危機へと誘発する要因としてドーパミンという神経伝達物質の存在に着目している。

ドーパミンが起業家を作り、ドーパミンが起業家を危機に陥らせる。これはひとつの仮説だろうが、本書においてはもはや仮説ではなく、当然の常識として幾度も繰り返される。実のところその医学的、生理学的機序は専門家でない私にはよくわからないところがあった。

2種類の起業家タイプが抱える光と闇

本書中、注目に値するのは、起業家には「価値志向型」と「快楽志向型」の2種類の類型があると言っているところである。

お金儲けが大好きであり、儲けてなんぼの世界で生きているような「快楽志向型」の人間は、目的の達成のためには手段を選ばず、失敗したとしてもそれを他者の責任にすることで、メンタル的には傷を負うことが少ないが、「価値志向型」の人間は、常に自分たちの行動を自分たち自身でチェックし、失敗すればそれは自分に落ち度があったのではないかと反省する。

そこにドーパミンが作用すれば、最悪、もう生きていく価値もないと自死を選択することさえある。だから何とか「価値志向型」の起業家(彼らこそが社会が本来望むべき起業家の姿だ)を、危機から救い出す必要がある。

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