「私の仲間5人も自ら命を絶った」 元起業家が語る「成功の罠」 日本の起業家が直面する「死のリスク」と「セーフティネットの欠如」
それから瞬く間に、アマゾンは全米のみならず、世界の流通マーケットを席巻してしまったのだ。まさに、一攫千金の夢が実現してゆくさまを、私は現地で目撃した。
アマゾンに続けとばかり、幾つもITベンチャーやバイオベンチャーが新しいビジネスモデルを引っ提げて続々と名乗りをあげ、投資家たちはこれぞといった事業に大金を投入した。
「起業家」を辞めた日
本書では、「2021年、新型コロナウイルスによる多数の死者が出ている真っただなかの年に、100億ドル以上の評価額のスタートアップ企業が、史上最多となった」と書かれている。
確かに、当時はスタートアップ起業家が世界を救うかのような期待のされ方をしていたのであり、多くの有能な若者が、夢の実現と一攫千金を狙って、新しいビジネスモデルを模索し、新規事業を立ち上げた。
私が、カリフォルニアで会社を作った時から20年後、スタートアップ企業をめぐる状況は様変わりしていた。
その頃は、私はベンチャー企業育成の世界から足を洗おうとしており、いくつかの創業ベンチャー企業を畳む算段をしていた。
そこにはいくつもの理由があったが、その1つは、どうもこの世界には私が忌避するむき出しの野望や、顕示欲や、見栄や、詐欺的な行為や、信じられないほどの単純な合理性信仰といったもので溢れかえっていることが身に沁みていたからである。
まあ、水が合わないということだ。別の言い方をするならば、私のささやかな美意識が、「もうそろそろ引き返せ」と私自身に囁きかけていた。
私は、自分がそれまでに築いてきた全ての有形資産を売却し、全ての定期預金を解約して、事業清算の費用に充当した。
その結果、私は一文無しになったわけだが、そのことについて私は全く後悔もないし、むしろせいせいとした気分で、この世界の門を出て、もう一つの本当に私がやってみたかったことや、本当に私が会って話をしてみたかった人々がいる場所へ続く門をたたいたのだ。
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