救急医療の第一線で活躍してきた東大の医師が語る「理想の最期の迎え方」と「知っておきたい薬の本当のこと」

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体というのは、川のような「流れ」で成り立っています。一カ所の流れを止めれば、別の場所の流れに支障が出る。それが体という全体のシステムです。

たとえば、自己免疫疾患で免疫抑制剤を使った場合。たしかに血液検査の数値は改善されるかもしれませんが、免疫全体の力が弱まることで、風邪をひきやすくなったり、別の病気にかかりやすくなるといったリスクも生まれます。

つまり薬には「目の前の症状を緩和する」という明確な役割がある一方で、「体全体の調和」という視点から見ると、別の何かを崩してしまう可能性もあるのです。

だからこそ、薬は「治すもの」ではなく「補助するもの」として考えるのがよいでしょう。あくまでも、体が本来の働きを取り戻すまでの一時的な助けとしての位置づけです。

もちろん、薬に頼らなければならないときはあります。しかしそれでも、自分の体の声に耳を傾けながら、必要最小限で付き合っていくこと。そして、「体の本質的な回復力」を信じて、その土台を整えていく生き方を選びたいものです。

薬の「リスクとベネフィット」

薬は、正しく使えば確かに効果を発揮します。とくに、いのちにかかわる急性期の疾患においては、薬は不可欠な存在です。

しかしその一方で、薬の使い方によっては、自らの「治る力」──すなわち自然治癒力を弱めてしまうという側面があることも、忘れてはなりません。

たとえば、慢性期の疾患に対する薬の使い方には、より慎重な判断が求められます。

糖尿病や高血圧、肝硬変、慢性の血管障害など、長期にわたってつき合う病気では、薬は「症状を抑える補助」の役割を担いますが、根本から治す力は、自分自身の体そのものにあるのです。

さらに、抗生剤についても同じことがいえます。

細菌感染には非常に有効であっても、使い過ぎれば耐性菌という“薬が効かない細菌”を生み出してしまうリスクが生まれます。細菌は賢く、薬の作用に慣れようとしますから、本当に必要な場面で薬が効かないという状況が起こりうるのです。

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