2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<下>《ムーディーズの業界分析》

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海運

ムーディーズは11年6月、世界的な船腹の過剰供給を背景に、世界の海運セクターの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。ムーディーズは、海運業界の状況が向こう1年から1年半の間に回復するとは考えていない。ムーディーズは、さまざまな船種における供給過多、高水準の受注残、世界の荷動きの鈍化、ユーロ圏債務危機を起因とした経済の不透明さを懸念している。

長期の契約に基づかないドライバルク船や油送船セグメントの市況は厳しい。特に、限定的なサービスのみを提供する海運会社への影響は、幅広いサービスを提供し、流動性や資金調達力がある強固な国内大手海運会社よりも深刻である。

定期船事業も、特に欧州航路の運賃の低迷から弱い状況にある。Drewry Shipping、IHS Global Insightといった外部データによれば、向こう2~3年のコンテナサービスへの需要は数パーセントの伸びと予測されている。

需要の伸びは見込まれるものの、以前ほどの強い伸びは期待できず、供給過剰による運賃の低下を相殺するには十分でない。コンテナ事業を行うほぼすべての海運会社は損失を計上し、限界点に近づいており、アライアンスの推進や、航路削減、運賃引き上げ、減速航海を進めている。

これらの施策は損失縮小にはつながるものの、定期船事業のリスクは依然として高い、とムーディーズは見ている。

12年2月、商船三井(Baa1)および日本郵船(Baa2)の格付けは、1ノッチ引き下げられ、見通しは「ネガティブ」となった。これは両社が、現在の厳しい環境下で短期的に財務レバレッジを引き下げることは考えにくい、とのムーディーズの懸念を反映したものである。

需要が低調であるため、長期にわたって利益およびキャッシュフローが弱い状況が続く可能性がある。良好な流動性や資金調達力、長期契約に基づく不定期専用船事業、顧客との強固な関係、分散した船腹ポートフォリオが、厳しさの続く12年の海運会社の格付けを支える要因となろう。

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