2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<下>《ムーディーズの業界分析》


家電

 ムーディーズは、アジアの家電業界の見通しを11年10月に「安定的」から「ネガティブ」に変更した。これは、消費者心理の悪化に伴い、主要な家電製品の売り上げが減少することが見込まれたためである。また、円高もあり、低コストメーカーからの競争圧力は増加している。

これまで家電製品の売り上げ成長を牽引してきたデジタルAV製品は、スマートフォンやタブレットなどのモバイルIT機器を除いて成熟しており、その結果、競争激化や収益性低下が起きている。加えて、モバイルIT製品の普及拡大に伴い、コンパクトデジカメやカムコーダーといったポータブル製品の成熟が加速する可能性がある。こうした構造的な変化により、モバイルIT製品に高い競争力を有していないメーカーの収益は徐々に減少していくであろう。

熾烈な競争と高い価格圧力が引き続きテレビ事業の収益を圧迫しており、それが日本の家電メーカーの収益性の低下につながっている。パナソニック(A2、ネガティブ)、シャープ(A3、ネガティブ)、ソニー(Baa1、ネガティブ)の収益は、サムスン(A1、安定的)やLGエレクトロニクス(Baa2、ネガティブ)といった韓国メーカーとの熾烈な競争により、低下している。

日本の家電メーカーは、デジタルAV市場における構造変化にうまく対応できていない。たとえば、市場ニーズの読み違いやマネジメントの判断の遅れによって、スマートフォンやタブレットなどの新製品で市場プレゼンスを確立することに失敗している。また、テレビなどの既存製品においても、製品の差別化、あるいは製造コストの削減を実現することができていない。

特にテレビ市場では、1970~80年代に見られた米国からアジアへのシフトと同様、日本からの競争力のシフトが起こる可能性があろう。日本の家電メーカーは、中長期的な事業・製品ポートフォリオの見直しを迫られることになろう。

こうした状況に対応するため、ソニーとパナソニックでは事業構造改革を実施しているが、ムーディーズは、少なくとも今後2年間でテレビ事業を黒字化するのは難しいと考えている。シャープも、デジタル放送開始に伴う買い替え需要が一巡した後の日本市場における大幅な需要低下に伴い、テレビ事業での黒字維持が難しくなっている。

13年3月期においては、構造改革による固定費の削減効果が見込まれることに加え、11年の特殊要因(大震災およびタイ洪水)の影響がなくなることから、収益が回復する可能性があろう。しかしながら、需要低迷、急速な価格下落、円高の継続に加え、デジタルAV製品における競争力低下の影響で、今後12~18カ月の間においても、日本の家電メーカーの格付けへの下方圧力は継続する可能性が高いであろう。

ムーディーズは、競争のさらなる激化や円高の進行、事業構造改革の遅れによって、日本の家電メーカーの競争力低下がさらに進む可能性がある点が最も大きなリスク要因である、と考えている。

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