考えられる2つめの説明は、欠乏ループに組み込まれた迅速な再現性に通じる。「超加工食品を食べる速度のほうがずっと速いことがわかったのです」とホールは言う。チマネ族の食事をとると、脳でPYYと呼ばれるホルモンが多く産生され、そのホルモンが被験者の食欲を減退させた可能性もある。
空腹を感じさせるグレリンと呼ばれるホルモンも減少していた。チマネ族の食事は、咀嚼(そしゃく)するのに多くの労力を要した。いっぽう、超加工食品は逆だ。超加工食品は、足るを知る助けとなる自然のブレーキを切ってしまったのだ。
では、肥満や、心臓を止めてしまうその副作用が増加した原因は何だろうか?
間食の世界における3つのV
数百万年ものあいだ、食糧が少なく、魅力的な食べ物にも乏しい世界に合わせてきた人間の欠乏脳は、1970年代になると豊かな世界のなかで生きるようになった。もっと多く速く食べるように細工された食べ物が巷(ちまた)にあふれ、ほとんどのアメリカ人がそれらを簡単に入手できた。そして、どんどん食べた。
食品産業にとっては、迅速な再現性が鍵だった。たとえば、間食だ。食品研究開発を担っているカルロス・バロッソは言う。「間食の世界には3つのVがあります。value(価値)、variety(多様性)、それからvelocity(速さ)です」。欠乏ループだ。
「1970年代初頭に間食はとてつもなく変化しました」と栄養学研究者のギエネは言う。「アメリカ人の食生活に間食というまったく新しい食品カテゴリーを作り出そうと、大々的なマーケティングが行われました。それが成功したのです。そして、間食としてどんなものが食べられているかというと、超加工食品なのです」
それでもカロリーはカロリーだと、先のケヴィン・ホールは言う。ジャンクフードも物理学の法則はくつがえさない。けれども、ジャンクフードからくるカロリーだと、より多く速く食べてしまう。ホールは現在、この研究で観察された体重増加を促すものを正確に突き止める研究を計画中だ。
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