氷河期世代、「未来が見えなかった30代」の先で彼女が手に入れた《陽の当たる部屋》。「ちゃんとしようと思って生きてきた」

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編み物をする澤さん
編み物は趣味、とはいえ凝ったセーターも編み上げる。着用セーターも手編み(撮影:今井康一)
庭先で育てている植物と手入れ道具
庭先で育てている植物と手入れ道具(撮影:今井康一)

朝の光を浴びながら、ごはんを食べる。猫に温かく語り掛ける。冬に草花の芽吹きに気が付く。そういったひとつひとつが、暮らしの輪郭を整え、彼女の「ちゃんと」をつくっていく。

「昔はここまでちゃんとしてなかったんですよ。たぶん、母の病気がきっかけで生活がぐっと変わったんです。

てきぱき動かないと、仕事と母のサポートが両立できないし、深刻な病状の母の治療や亡くなった後のことも、自分が決めないと、どうにもならなかったから。自然と、無駄に時間を過ごしたり迷ったりすることがなくなりました」

飼い猫
飼い猫は、キャスパー(6歳)とピトー(5歳)の2匹。キャスパーは警戒心が強く人がいると隠れているが、ピトーは末っ子気質で人懐っこい。2匹とも、保護猫を引き受けた(撮影:今井康一)

最愛の母を失うという経験、母の晩年に寄り添った日々が今の彼女の基盤になっている。

「親って、最後まで子どもを育ててくれるんだなって思いましたね」
澤さんは、しみじみとそう言った。

帰ってくる場所があれば、人生は大丈夫

この部屋は、澤さんにとってどんな存在ですか?ーーと尋ねると、少し考えてから、こんな言葉が返ってきた。

「帰ってくる場所、ですね。外で素敵なところに行ったり、誰かと楽しく過ごしたりしても、必ずここに帰ってくる。この部屋があるからこそ、外の時間も楽しめるんだと思います」

彼女の暮らしは、ひとりで完結しているわけではない。仕事のつながりがあり、趣味の仲間がいる。そして、すぐ近くの目黒区で、姉もひとり暮らしをしている。姉とは時折外食したり、お互いの家を行き来したりする関係だ。

「姉が近くにいてくれるのは心強いです。でも、一緒に住もうと思ったことはないです。姉は私よりずっとハイスペックで収入も多い人なので、一緒に住んだら頼りすぎちゃう気がして。

お互い自立して、たまに目を配り合うくらいがちょうどいいんです。今はそういう人間関係が、いいと思いますね。家族でも、友達でも」

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